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ターバン女のひとりごと

2025.01.14 更新

『手紙で想いを伝える』

一月。元旦。

年賀状がちらほらと郵便ポストに届く。明らかに年々減っている。

余白に直筆でひとことコメントが書き添えられていると、なんだかうれしい。

その人の文字は、その人自身を感じられるからだろうか。

テキストメッセージでは得られない、ぬくもり。

小学生のころ、岩手県盛岡市に住んでいる女の子と文通をしていた。便箋と封筒を文房具屋で買ってきて、手紙を書き、切手を貼って、ポストへ投函。配達にかかる時間、今日は届いていないかとポストを開ける楽しみが、じわじわとあった。

その子の書く文字を見てどんな子なんだろう、と想像するのもまた楽しい。

どんなやりとりをしたのか内容はまったく覚えていないが、見知らぬ土地に住む小学生と交流するということ自体が特別で、わくわくした。

手紙には、その人の書く文字、便箋の香り、切手の消印、いろんな情報が詰まっているのだ。

愛読していた児童文学の作者に、ファンレターを出したこともある。感動したこの想いを作者に伝えなければ、と衝動的に出したのだ。まさか返事がくるとは思っていなかったので、作者の自筆のお手紙が届いたときは驚いた。便箋には、小学生でもわかるようなことばで、丁寧に綴られていた。ほんまに、実在する人だったんだ!とずっと眺めていた。

中学生になると、愛読していた雑誌『オリーブ』などの切り抜きをコラージュしたものをコピーして、オリジナル便箋などを作って、東京に住んでいる女の子と文通していた。

好きな雑誌のこと、ファッション、音楽のこと。それぞれの好きな曲をカセットテープに編集して、交換などもした。

その子はスーパーグラスというイギリスのバンドが好きで、とてもかわいい小さくて丸い字を書く女の子だった。

大人になると手紙を書くことがなくなった。

メールが主流になって、LINEが登場し、いつでもどこでも誰でも繋がれる時代になった。

便利だけどテキストメッセージはどんどん更新されて次第に埋もれていき、あっという間に何を送ったかなんて忘れてしまう。

大人になってから西加奈子という作家のファンになり、新刊が出るたびに熟読した。直木賞を受賞された時は、西さんを教えてくれた友達にお祝いメッセージを送って、一緒に喜んだ。

こんなに新刊を楽しみにできる作家と出会えることは人生でなかなかないので、何度もファンレターで想いを伝えようとしたが、結局書かないままだった。

西さんのHPの近況報告はいつもチェックしていたが、ある時からなかなか更新されなくなった。しばらくして乳がんであると公表され、しばらく自分ごとのように感じて少し沈んだ。

そんなとき、梅田の紀伊國屋書店でサイン会があると知って、すぐに申し込んだ。急いで今まで書けなかった想いを手紙にしたためて、西さんに直接お渡しした。

西さんは来場された全員に、カバンの中からあめちゃん出す、みたいな感覚でビスケットを配ってくれるあたたかい太陽みたいな人だった。

数週間後、カミーユ・ピサロの絵葉書がポストに届いた。つげ櫛のイラストの切手が貼られていて、丸いコロコロとした可愛らしい文字で、お返事が書かれていた。

西さんそのものだった。

メールでの返事となにがちがうのだろう。

そのひとが葉書や切手を選び、考えながら文字を書く、そしてポストへ投函するまでのかかった時間。誰かが運んでくること。

もの以外のなにかを交換をしている。

そのなにかは、想いの交換で、手紙を通して心を通わせてるんじゃないだろうか。

美術館へいくたびに、絵葉書を購入する。いつか誰かに想いを伝えるために。

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