スツール

ターバン女のひとりごと

2023.11.15 更新

『踊る日本人⑩』

今年一番印象深かった盆踊りを紹介したい。

とある自治会の盆踊り大会に、ノコノコと出かけていった。

小学5年の息子も連れていく。そろそろ年頃なので、こういう母親同伴のイベントにはあまり出かけたくないと思うのが彼の本心だろう。

しかも子供そっちのけで母親が踊り狂うのである。自分だったら嫌だ。すごく嫌だ。だから息子には感謝しかない。

日が暮れて現場へ向かうと、自治会の方々が昼過ぎから準備してくださった櫓と、カラフルな提灯が闇夜に浮かぶ。大変美しい。

次第に子供たちがポツポツと集まってくる。

大体こういう自治会の盆踊りは、年配の方々が中心で、子供は恥ずかしがって参加したがらないのが常だが、今回はほぼ子供メインである。

気づくと地域の子どもたちがわんさか集まってきたではないか。

音頭が流れ、保存会のメンバーたちが輪になり踊り始める。その外側の輪で、子供たちが見よう見まねで踊り出す。

幼児は踊れても踊れてなくても一生懸命に真似して踊り、小学生中学年くらいになると、少し様子見して踊っている。中学生になると完全に周囲を意識して照れが見え隠れしている。少し離れた暗がりで、その保護者たちが見守って見ている。

江州音頭が流れると、私の中のタガが一気に外れ、踊りに没頭し始める。ああ、楽しい!

ふと見ると、同じように盛り上がっている子供たちが目に入る。小学生男子たちである。振りは無茶苦茶なんだけどもノリで踊っていて、すごく楽しそう。

ゾーンに入ったのだろうか、爆発的な楽しさが開花。もうその無邪気な笑顔を見てるだけで、世界平和を感じるレベル。

その横で、小学生女子たちが「すんとした顔」で完璧に踊っている。その対比がたまらない。

間違えないように間違えないように、ちゃんと踊ろうとしてる女の子と目が合う。

手でグッドポーズを作ると、彼女は照れるように笑った。触れたら壊れてしまいそうになるくらいの繊細な笑顔だった。そのままでいいよと心の中で思った。

曲が幼児向けのアンパンマンマーチに変わると、自分の中の羞恥心を一気に消滅させて、全力でアンパンマンを踊るのである。真顔で幼児たちがこっちを見ながら踊っていることに気づく。すごく真剣な眼差しだ。誰が2、3歳の真っ直ぐな瞳を外らせるだろうか。がっぷり四つで完全に同じ目線で踊ることに徹する。

そんな風に非言語コミュニケーションに夢中になっていると、ふと息子が視界に入ってきた。

普段は遠巻きに傍観してる彼だが、今回は同年代の子供たちが多かったせいか、するっと輪の中に入り「すんとした」顔で踊っていた。まるで昔から知っている、という顔をしながら。私は幼児たちと対峙しながら、少し離れたところから息子の姿を見た。輪の中には孫を見るような眼差しのおじいちゃんおばあちゃんたち、幼児から中学生までの子供たち、そして自分のような中年世代がぐるぐると円を描くように循環していた。これでご先祖さんも十分満足してあの世に帰れるだろう。

終盤に差し掛かると、子供たちはこなれた踊りを披露し始め、周囲の目なんか気にもしなくなった。無邪気な子供たちのエネルギーがその場に漂う。

大人たちが盛り上がって踊るのも楽しいが、子供たちのエネルギーは周囲を活気づける。

そのピュアな姿を見る度に、子供を上回るくらいの熱量で踊りたい、と思うのだ。

自分が小学生の頃、ちょっと変わった大人、大人らしくない大人を見たとき、ほっとしたものだ。

え、この大人真剣に遊んでるやん!と思われたい。

ちょっとへんてこやけど、楽しそうに生きてるな、と思われたい。

ますます踊りの楽しさを体現して生きていきたいと思えた、そんな一夜だった。

つづく

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