７月になり、こちら園部は梅雨らしいお天気が続いています。
６月のコラムに書きましたが、天然パーマと髭が濃い人は禿げる。と言う義理の父の迷言を覆すために日々精進した生活を送っていますが、最近、高校の友人と久しぶりに会いました。４３歳の中年男性が６名。そのうちの一人は頭頂部の髪が全くありませんでした。確か数年前までは…。
しかし、久しぶりに会った友人の頭に、黒々と髪の毛が生えていたのです。
私が思わず「すげー」と驚いていると、友人は頭をさすりながら「そやろ！」と嬉しそうな笑顔を送り返してきました。そして、どうやって髪の毛が生えたのかを、いや、生やしたのかを詳しく聞きました。
七夕の短冊に「髪の毛が生えますように～。」と書くだけでは生えないことは確かです。

56コラム「安生してもらって～。」

今回は、大越さん（仮名）８０歳。男性の方です。
Sukkuの利用目的は、重度の腰痛の改善、そして認知症の対応です。
この方はSukkuを開設してすぐに利用が始まったので、比較的長いお付き合いをさせて頂いています。性格は明るく、とっても面倒見の良い方。イメージは、誰とでもよく話しをする近所の陽気なおっちゃんです。奥さんの晴恵さん（仮名）も素敵な方で、送迎の時は「いってらっしゃーい」と、必ず大きく手を振って見送ってくれます。

そんな大越さんの生まれは大阪の下町で、ご実家は商店街で魚屋さんをしていました。若い頃から大越さんもお店に出てお店のお手伝いをされていたせいか、とにかくお話が上手。どんな話でも盛り上げてくれるし、最後は笑いに持っていき、オチをつける。という生粋の大阪人。また、幼いころから野球に励み、PL学園で高校野球もされていました。
社会人になってからも野球は続けていて、野球と子供が大好きなおっちゃん。我が家の子供たちが夕方帰ってくると、「おかえり～。おっちゃんとキャッチボールしよか～」と、キャッチボールに誘ってくれます。Sukkuの前の駐車場へ行き、丁寧にボールの投げ方・とり方を教えてくれるのです。認知症の影響で名前を覚えることは苦手なので、毎回子供には「ぼく～。おいで～」と優しく声をかけてくれます。
キャッチボールをしたり、おもしろい話をして笑わせてくれたり…いつの間にか、息子も「今日は大越のおっちゃんきはる日やんな？」と聞くようになりました。

しかし、利用して頂いて5年ほど経過した頃、認知症による集中力の低下が一気に進み始めたのです。トレーニングをやっていても反復した運動を続ける事が難しく、スタッフの声かけに対しても怒り出してしまうこともしばしば。根はとっても優しいおっちゃんだと言うことを私たちは知っていますが、認知症の進行により、元々の性格の良いところがなくなってきたのです。大越さんが心地よくリハビリできる様に、あれやこれやと工夫したものの、上手くいきません。もう、Sukkuで運動を続けることが難しくなってきたかなぁ…現実を受け止めつつ、大越さんのことを想う日々。
担当のケアマネージャーとも相談して、大越さんの状況を、奥さんの晴恵さんに伝えました。しかし、晴恵さんはなかなかそのことを理解できません。ですので、時間をかけてお話しします。今の大越さんに合う場所が他にあるかもしれないこと、入浴サービスの必要性（Sukkuは入浴と食事のサービスはありません）など、２か月ほどゆっくりと時間をかけて説明していきました。その間、他のデイサービスの見学も並行して行いました。
そして、話し合いの結果、そちらへ移行することになりました。

いよいよ、Sukku卒業の日。
トレーニングも無事に終了し、利用者さんみんなが椅子に座り、スタッフも整列します。
私が「大越さん、約５年間ほんまにありがとう！今日でSukkuは卒業です！」と伝えると、大越さんはびっくりしながら大きな花束を受け取りました。我が家の子供達からも、手紙や折り紙で作ったプレゼントを渡しました。
最近は、物忘れがかなり進行しているため、何で花束を渡されるのか分かっていない様子。
そして私が、大越さん最後に一言お願いします。と言うと「え～安生してもらって…。」そこから言葉が続きません。半分泣きながら「安生してもらって～…。」やはりそこから言葉が続きません。
最後は、利用者さんお一人お一人とハイタッチをしながら、みんなで見送りました。
（ちなみに前回のコラムに登場した『何でも一喜一憂する方』が、「今までありがとう！」と、突然の大号泣。それを見てスタッフは大爆笑。）

私は、大越さんの５年間の認知症の進行を感じながら自宅まで送りました。
最後は自宅前で夫婦並んで手を振ってお別れをしてくれました。
あれから１か月が経ちました。新しい場所で、今の大越さんらしく過ごされていると聞いています。寂しいですがこれで良かったと思います。
ありがとう！大越さん。（おしまい）

次回コラム「口と胃袋は元気です！」