スツール

ターバン女のひとりごと

2023.01.15 更新

『メキシコのファミリア⑧』

オスカルは三度ほど来日し、二度我が家で数日間のホームステイをした。

二度目の来訪では丁度息子の通う学童の歓迎BBQ会があり、オスカルも飛び入り参加した。

普段異国の人には慣れている息子だが、日本人の子供達や保護者多数のフィールドにオスカルが参加することに危惧している様子だった。

オスカルは大柄だし、いるだけで存在感がある。

「いきなり言葉の通じない外国人を連れて行って、大丈夫なのだろうか?」

日本人特有の人目を気にする思考に陥る息子。

ところが、オスカルはたちまち子供達に囲まれ、なんならゲームにも参加していた。

息子の不安も他所に、子供達はオープンハートだった。みんな知ってる英語を使い、ジェスチャー付きで自己紹介が始まる。

オスカルは大変穏やかで優しい人柄なので、子供達は何の壁も感じずに和やかに接している。

陽気な大人たちも、次々とオスカルとコミュケーションをとり始める。

そこには人種や言葉の壁はなかった。

あるのは、美味しい肉と笑い声だけ。

気づいたら息子も笑っていた。

我が家に滞在している時は、純粋な日本食を食べさせてあげたいと、お味噌汁に白ごはんに納豆、ひじきなどのやや地味目な食事を出したりした。

オスカルは丁寧に箸を使い、一品ずつ順番に食していった。

そうだ、メキシコには三角食べは存在しないのだ。

白飯だけをただひたすら食べるオスカル。なんかしんどそう。

日本食はどれも美味しいと言うオスカルだが、一定のトーンなので本当に美味しいのかよくわからなかった。

しかしそんなオスカルが目を輝かせて、「おいしいいいい!!!!」と絶叫した瞬間があった。

それが日清ラ王サンラータン麺である。

メキシコは辛い料理によくレモンをかけて食べるらしく、酸っぱ辛い味にそろそろ飢えているかもしれない・・と思い、ただ何となく出してみた。

手間も何もかからない一品である。

見ていてもボルテージが上っているのがわかる。

かなりの興奮度。

「これ、メキシコに持って帰りたい!」とまで言い出した。

仕様がない、そんなに気に入ったのなら。

わたしはスーパーへ直行し、棚にあるだけのサンラータン麺を買い漁り、「さあ、これをメキシコに持って帰ってちょうだい!」と満を持してオスカルにどかっと渡した。

オスカルは「これを入れるだけの為のスーツケース買うわ」と爆笑していた。

その後メキシコに帰ってテレビ電話をかけてきたのだが、早速サンラータンを啜っていた。

日本語が読めないので水の分量が明らかに多めで、「これ、前に食べたやつと違う」と首をかしげていたのであった。

あれから数年経ち、夫妻に待望の赤ちゃんが誕生した。

妊娠を知ってから、すぐに出産祝いを海外便で送った。

出産祝いのノシをつけた、純日本風の送り方で。

伝統的なものが好きな二人なので、とても喜んでくれた。

数ヶ月後生まれた赤ちゃんは、美しい女の子だった。

清水寺の胎内巡りの後、真剣にお守りを選んでいたナッシュとママの顔が浮かぶ。

あの美しい赤ちゃんと対面する日はいつになるだろう。

メキシコの、新しい家族なのだ。

おわり

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