スツール

ターバン女のひとりごと

2022.06.15 更新

『メキシコのファミリア②』

ひょんな縁から親しくなったメキシコ人のオスカルとナッシュ夫妻。

翌年にはナッシュのママも同行して、来日することになった。

東京、大阪などの友人宅を訪れる中、京都にもやってくるという。

到着して1日目は奈良の東大寺に行きたいというので、車で向かうことにした。

その道中の話である。

運転は夫、助手席にはナッシュのママ。

後部座席に夫妻とわたしが乗り込む。

当然だが車内で飛び交うのはスペイン語であり、わたしに話しかける時だけ英語になる。

日本語皆無の中、突如ナッシュ先生によるスペイン語講座が始まったのだ!

もちろん、生徒はわたししかいない。

ナッシュは日本語は話せないので、英語での指導なのだが、わたしの脳内で英語→日本語→スペイン語に変換されるので、当然だが脳内お祭り騒ぎである。

だんだんと日本語に変換が追いつかなくなり、何語を一体話しているのかもわからない始末。

以前夫からナッシュは、文法にえらく厳しいと聞いていた。

間違った文法を使うと、即指摘が入ってくるくらい、文法マスターなのだ。

ナッシュには「まあ、外国人が話すスペイン語やし少々間違ってもいいやんな」は、通用しないのである。

案の定、適当な英語を話すわたしにもナッシュ先生の鋭い指摘は飛んできた。

「She likeじゃない、likesやで、sつけなあかん」というように。

内心、「ちょっと忘れただけやん・・だいたいわかるやん・・流しといてよ・・」と思うのだが、ナッシュ先生には問答無用。

そんな先生のスペイン語講座なのだから、ゆるくなるわけがない。

簡単な挨拶文、1から10までの数え方をスペイン語で教わり、「はい、じゃあ、最初から言ってみて!」と、リピートアフターミーの嵐。

全部言えるまで許してもらえず、やっと合格したと思ったら、I My Me Mineなどの人称代名詞スペイン語バーションのフルコンボ。

これがびっくりするくらい馴染みのない言葉なので、まったく頭に入ってこない。

「ええっと・・」と頭を抱えた振りをしながら、ちらっとナッシュの顔に目をやると、劇画タッチ並みの真剣な表情をしてこちらを凝視しているので、慌ててまた考えてる振りをし直す。

この車内の密閉空間で、日本語も話せず、至近距離での熱血スペイン語指導・・耐えられない、もうここから出してくれ!!!と、心の中で大絶叫。

白目になりながら、ふと冷静に車内を見渡すと、みんなのんきに笑っているではないか。

そうこうしてるうちに奈良に着き、ほっと胸を なでおろしたのは言うまでもない。

(つづく)

ご予約ご質問