スツール

ターバン女のひとりごと

2022.05.16 更新

『メキシコのファミリア①』

世知辛い世の中、暗いニュースばかりが蔓延ってると思いきや、その反面心がはずむような明るいニュースも同じくらいあるはずだ。

先日メキシコからハッピーニュースが届いた。

友人であるオスカル、ナッシュ夫妻に待望の赤ちゃんが誕生したのだ。

正確にはナッシュのお腹の中にまだ彼か、彼女かはいて、すくすくと育っている。

テレビ通話で見る、溢れんばかりのしあわせに満ち足りた二人の笑顔。

希望という光に包まれて、眩しいくらいだ。

二人との出会いは5、6年前に遡る。

夫の友達の友達が日本に行くから、家に泊めてやってほしいというメッセージが始まりだった。

よく考えてほしい。友達の、友達だから「ほぼ他人」である。

まずオスカルという名前を聞いて、池田理代子の名作『ベルばら』しか思いつかないし、しかも嫁も一緒に来るという。

メキシコからの来客。大きな帽子を被って、マラカスを鳴らし、どんな陽気な夫婦がやってくるのだろうかと妄想は膨らむばかり。

やってきた二人は 当たり前だが、大きな帽子も被っていなきゃ、マラカスなんぞも鳴らしていない。極めて礼儀正しい若者夫婦であった。

嫁のナッシュはエキゾチックな顔つきで南米美女であり、オスカルにいたっては、とても大柄だが日本人より日本人らしい几帳面さを持っていた。

まず出かける5分前には玄関に大きな体を曲げて、靴紐を丁寧に結んで静かに待っているし、布団や服も常に綺麗に畳まれていた。

夫とはスペイン語を喋り、私とは片言の英語とジャスチャーで、会話という会話にならないのだが、なぜだか親しみがある。

唯一「外国人がうちに来たんやなあ〜」と思った瞬間は、二人がシャワーを浴びた後に、大量にコロンのようなものを体にバッシャバシャと振りかけているので、部屋中が「あの外国人の香り」になるのである。香りは身だしなみの一つらしい。

当時幼児だった息子は、日本語もままならない中、即興の踊りと歌で二人とすぐに仲良くなっていた。

子供のコミュニケーション能力の高さに思わず目を見張る。言語以上に通じ合うものが、本来人間にはあるのかもしれない。

以前キューバ人の夫の友人が我が家に来た際も、息子は日本語を喋り、友人はスペイン語を喋って会話していたところを目撃した。

友人に「(息子が)言ってることわかるん?」と聞くと、「恐竜についてめっちゃ説明してくれてる」となんとなく息子の恐竜へのパッションを理解していたから、日本人特有の「ちゃんと喋らなければいけない」という概念はもはやどうでもよくなってくる。

結局二泊ほどして、夫婦は我が家を後にしたのが、短い期間なのになぜだか別れが惜しく、心の中に寂しさが残る。

二人とハグして「また会おうね!」と、見送った。

その次の年に、今度は夫婦と嫁のママ三人で来日して、再会を果たすのである。

つづく

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