スツール

ターバン女のひとりごと

2022.04.15 更新

『春のぶらり福井旅』

観光旅行というものが苦手だ。

いつもとは違うテンションでわ〜〜っと押しかけて、観光名所を「ほう・・」と知ったような知ってないような顔で見て回り、帰る頃には「で、一体わたしはここの何を知ったのだろうか・・」と毎度途方に暮れたりする。

実際にその土地の上部のうっす〜い部分しか目撃していないのではないか。

20年以上前に訪れたフランス、パリにおいてもそうだ。ノートルダム寺院、エッフェル塔、ルーブル美術館・・名所という名所を回ってもやはり「ほう・・」と鳩が豆鉄砲食らったような顔しかできず、わたしは大変欲深い人間なので、「このパリの、街の、空気感だけでも肌で感じておこう」と瞳孔開きっぱなしで目に焼き付けている自分がいる。

その反面、観光名所ではないパリの下町を歩き、いかにも怪しげな店に迷い込んで入ってしまい、同じく怪しげな兄ちゃんに「ハロウ〜〜」と声をかけられたり、ラーメン屋でうっとりしながら身を寄せ合い、一人前の餃子をつつくマッチョなゲイカップルを真正面で目撃したり、個人商店の黒人のおじいちゃんに優しくされたり、そんなたわいもないことに、「ああ。わたしは今、パリという街に来て、生きている・・!」と喜びを感じたりするのだ。

先日福井県に旅行で訪れた時もそうだった。

お目当は恐竜好きの子供が熱望していた、福井恐竜博物館である。今回で4度目となるのだが、毎度恐竜の骨や鉱物を腹いっぱいになるまで見尽くし、頭の中白亜紀になって帰ってくるというパターンなのだが、今回は他の観光地も回ってみることにした。

博物館からほど近くにある、禅寺の永平寺。

かのスティーブジョブスが禅の世界へ惹かれ、ここで出家しようとして、周囲の人から「あなたにはまだ沢山やることがある」と全力で止めらたという逸話がある場所だ。

もし永平寺で出家して山にこもってしまったら、今当たり前のように使っているmacもiPhoneもこの世に存在していなかったかもしれない・・いや、彼は普通の人ではないから、出家してさらに感性が研ぎ澄まされ、もっと世界を驚愕させるものを発明したのかもしれない・・などと思いを馳せながら、川のせせらぎ、雨がしとしと降る中、しんとした境内に踏み入れる。

建物の広大さ、歴史の重さを目の前にして、やはりいつものように鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしながら散策するのだが、時折すれ違う若い修行僧の足元に目が行く。

裸足・・!

ダウンジャケットを着て丁度くらいの寒さのこの日、「ああ、寒そうやなあ、もこもこソックスなんてはいたら怒られるんやろうなあ」と、ついいらぬことを考えて、煩悩まみれの脳みそで、瞳孔開きっぱなしで修行僧を眺める自分がいる。

ここはひとつ、グッズを買って帰るかと、お香を購入。

東尋坊の沖合に浮かぶ雄島では、信じられないくらいの海からの強風。

顔を歪めながらなんとか橋を渡り、長い石段を登り、大湊神社を参拝。

島を一周できる散策路からは、むき出しの野生の潔さを感じつつ、崖から見下ろすとエメラルドグリーンの海の底。

日本海育ちにとって懐かしいような自然の脅威を甦らす場所である。

大自然を舐めてはいけない、が教訓なのである。

帰り道、カップルとすれ違う。

男の方は若いが女は若干良いお年頃。

酒焼けした声をしていて、がっつりとハイヒールを履いている。

え、そのヒールであの急な石段登って、険しい山道歩くの?!と他人ながら激しい靴擦れの心配をしてしまう。

「やめとく?」という、優しい男の言葉を振り払うかのように、「全然行けるって!」とややガニ股で突き進む女の後ろ姿が目に焼きつく。

そしてまた家族で顔を歪めながら、強風吹き荒れる橋を渡って帰った。

また移動の車中から見る、田園風景の中に、やたら墓が目につく。田んぼのど真ん中という開かれた場所に墓が転々とあるのだ。なんて風通し良さそうな!

家の真横に立っている墓さえもある。毎日御墓参り!

そして信号機が横並びではなく、縦並び!

鯖江市の西山公園という名所では、小高い山から市内が一望でき、ちょっとしたハイキングコース、綺麗な芝生、子供が思い切り遊べるアスレチック盛りだくさん、そして動物園まであり、しかも無料!鯖江の財政の潤いを肌で感じる!

地元のスーパーに寄って、地元の人たちの会話が聞こえてくる。

独特のイントネーション!関西でも関東でもない、聞いたことがない響き。方言を聞くと、妙にテンションが上がってしまうのだ。

また地元の子供たちで賑わう公園に立ち寄ると、ここは昭和なのか?と思うくらい、小学生高学年男女が無邪気に遊びまわっている。そして会話をよくよく聞くと、独特のイントネーション!

土産物を買って、レジのおばちゃんに「袋はいりますか〜?」と聞かれ、また胸が震える。

文字で書くとさっぱり伝わらないが、声の上がり下がりが行ったり来たりするかんじなのだ。

そして土産物を受け取りながら、思うのである。

「ああ。わたしは今、福井という街に来て、生きている・・!」と。

ご予約ご質問