スツール

Sukkuのクスッと笑わせて

2020.09.25 更新

⑩「正美さんのベルトは反対」

9月も後半に入り、南丹市は稲刈りも終わり新米が出てきています。
新米を炊くときは水を少なめにします。でないと、白米は柔らかすぎてしまいます。
こんなことを最近知った私ですが、この時期のピカピカに光った白米が大好きです。
私が南丹市で仕事をして、13年。13年前から知り合いの方で今、Sukkuをご利用いただいている方が何名かおられます。今回はそんな方を紹介したいと思います。
名前は正美さん(仮名)91才 男性です。
元々は正美さんの奥さんのリハビリを担当していた事がきっかけでした。奥さんは難病の方で週1回自宅に伺いリハビリをしていました。正美さんは、奥さんの病院の送迎や介護などをされていて、とても献身的。奥さんのリハビリが終わるときを見計らって、正美さんは熱い珈琲を入れて待ってくださるのが習慣でした。猫舌の私は飲み干すまでに時間がかかるので、その間色々なことを話しました。正美さんもゴルフが好きだったこと。ゴルフをやめてからはグランドゴルフにはまり、南丹市でチャンピオンになったこと。夫婦で色んなところへ車で旅行に行ったことなど。
大雪の日には、屋根の上で雪かきをしていることもありました。

正美さんは町会議員を3期されましたので地域の事などもとても詳しく、議員中に補助整備事業で地域の道や田を整備して生活しやすい街の手助けをしたことを話してくれました。そして、園部町のスーパースター 野中 広務さんの直接の後輩だったらしく、一緒に選挙カーに乗ったり、国会議事堂に行ったり、選挙関連で警察の世話になったり!?とても興味深い話しをしてくださりました。その都度私は「へ~」と驚きをもって聞いていました。
その中でも特に印象的だったことが、日本人の平均寿命は女性が高いことが当たり前のようになっていますが、正美さんはこう言いました。
「元気で若い男はみんな戦争に行った。そして、戦死した。だから、女性が長生きのように見えるんや。」
私には考えもつかない言葉でした。
正美さんは中学卒業後に志願して陸軍に入隊されました。
そこでも色んなことを体験されたそうです。愛知県の蒲郡で作業していると、かなり大きな地震に遭遇し兵舎や作業場が崩壊、多くの方が建物の下敷きになり大変だったこと。自分は命からがら逃げだしなんとか助かったが、軍事情報とのことで、被害の大きさなどはほとんど公にはされなかったことを教えて頂きました。

そんな正美さん、5年ほど前から腰の病気の影響で足の筋力が弱り杖で歩くようになっていました。そして、開設して間もないSukkuまで自分で車を運転して見学に来られ、そこから利用が始まりました。
ご利用中は色々なことがありました。少し肺が弱いこともあり、冬になると風邪をこじらせ、肺炎で入院し生死をさまよい、そして復活して帰ってくる。こんなことが毎年続いていました。帰ってくる度に「今回も帰ってきました!」と明るい表情で話しをされていました。
利用者さんにも知り合いが多くおられましたし、男女分け隔てなくいろんな方に話しをされていました。その時に決まって言われることがあります。「ここの運動は続けなあかん。休んだら身体が動かんようになる。」
その言葉に私たちは何度も救われました。自分たちのしていることは間違っていなかったと。

10年の付き合いの中で一つだけとても気になることがありました。それは、正美さんはいつもベルトが反対向きなんです。外出するときは必ずジャケットを羽織り、綺麗な格好をされている方です。ズボンをはき替えても必ずベルトは反対です。最初はあまり気になりませんでしたが、徐々に気になりだしいよいよ聞きたくて仕方なくなりました。
正美さんの答えは・・・
戦時中、腰に大きなベルトを巻いていてそこに色々な道具(剣や銃)をしまっていたとのこと。その時の太くて大きなベルトは右巻きだった。その時の癖で、右からベルトを巻くようになったとのこと。しかし、使っているベルトは左巻き用のベルトを使用しているためベルトが反対向きに見えるのです。
90才になってもベルトの向きを変えることが出来ない位戦時中に刷り込まれたものは消えないんだと痛感させられました。やっぱり戦争は怖いし、二度としてはならないと強く思いました。

そんな正美さん、二か月前のSukku利用時、発熱を認めたので病院受診してもらいました。すると、新たな病気が見つかりそのまま入院する事に。入院中に一度顔を見に行きましたが、元気そうで、「9月からSukkuにいくわ!」と話しをしていました。退院後、また会えることを楽しみにしていました。
ですが、容体が急変、このコラム完成2日前に天へ召されました。
あまりにも急で、私もスタッフも気持ちの整理がなかなかつかないです。
でも、お通夜の時に「コラムでしっかりと正美さんの事を伝えるしね。」と約束しました。以前から今回のコラムは正美さんと決めていたので、正美さんにとってはこのタイミングやったんかなと・・。自分に思い込ませながらコラムを終わります。
正美さん、天国でこのコラムを見てくださいね。皆の頭の中に、心の中にあなたはずっと生き続けますから。(おしまい)

次回は、「咳をするときは必ず入れ歯を外します。」

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