スツール

Sukkuのクスッと笑わせて

2020.10.10 更新

⑪「咳をするときは必ず入れ歯をはずします。」

 朝晩はずいぶん涼しくなってきた10月5日。
最近の川瀬家は家族で山登りに励んでいます。2・3週間に1回のペースで2時間くらいで登れる山を登っています。子供たちは昆虫採集という名目で山登りに参加させられ、最初は網と虫かごを持って登りだし、バッタやカマキリなどを探します。少し登り山の中に入ると昆虫は一気に減ります。すると、網は杖に代わります。そして、虫かごは落ち葉狩りの落ち葉入れに代わります。最後は何も持ちたくないと言い出し、親がどちらも持つことになります。最終目標は、長男が小学校6年生になったら富士山へ登頂することです。

さて、運動をメインとするデイサービスのSukkuには、変形性関節症をお持ちの方が大勢おられます。その方々に対してSukkuでは、出来る限り変形を正常な方向へ持っていくためのトレーニングをして頂いてます。
今回のコラムでは、そんな変形性関節症で来られた82歳男性の人見さん(仮名)を紹介したいと思います。

人見さん、顔はダンディでとってもハンサム。しかし、160センチ75キロと体重過多傾向で、ビールは飲まないのに立派なビールっ腹、膝は曲がるけど伸びない膝になっていました。痛みのために50メートル以上歩けず、物忘れの影響で少し怒りっぽくなっている方です。
まず私たちが取り組んだことは体重を減らすことでした。週2回利用していただき自転車など有酸素系の運動をしましたが、一向に体重は減りません。それもそのはずで、この方は大の甘党で饅頭が大好物。毎日何個も食べておられたのです。Sukkuで運動して家帰って饅頭食べる。時には、Sukku利用中に金時飴を持参して食べておられました。
奥さんに食事制限を勧めても、ついつい饅頭を買ってしまうとのこと。毎週毎週体重測定をして本人の意識を高めようとしましたが、そこは物忘れの影響で以前何キロあったかなんて覚えていません。それどころか、なんで自分だけが毎回体重測らなあかんのや!と怒り出す始末に。私たちは早々に減量を諦めました。
そして、伸びない膝を改善させて、筋力をしっかり鍛えることに集中しました。
すると3か月ほどで膝は伸びるようになり、太ももの筋肉もかなり向上。福祉用具も併用して15分程度歩けるようになりましたが、体重は減らず、痛みも残っていました。
私としては出来ることはしたという気持ちもあったので、痛みをすっきり取るには人工関節の手術が良いと病院を紹介しました。(過去にも2・3人おられました。)
そこからとんとん拍子で日程が決まり、入院・手術と無事終わりました。そして、スムーズにリハビリも進み体重も減らして1、2か月で退院かなと思ったら・・・
元々落ち着きのない性格の人見さんは、2週間ほどで家に帰りたくなってしまいました。そして、1度帰りたくなってしまったらもうだめです・・・。
手術して3週間で半ば強制的に退院。退院後すぐに利用再開となりましたが、思ったほど体重が減っていないこともあり、手術した側の膝は腫れてパンパン。ご利用前後は膝を冷やしながらゆっくりとリハビリを行っていきました。すると、1か月位すると杖無しで歩けるようになり、本人もほとんど痛みがないとのこと。さすが人工関節!
そうなると大変です!何が大変か?
痛みはない。歩ける。となると人見さんの中では、Sukkuに来る必要性がとても低くなるのです。
すると、来ても徐々にふざける様になってきました。物忘れの影響もあり、自分がなぜここに来ているのかが分からなくなり、怒りっぽさも増してきました。
大声を出したり、わざと大きな咳をしたり、スタッフに対してとても横柄な態度になってきました。私たちは悩みました。人見さんの当初の目標は達成しているので、もう卒業しても良いのではないか・・。そして、奥さんやケアマネージャーとも相談しました。本人はそんなことはつゆ知らず。上機嫌で過ごしているかと思えば、急に不機嫌になったりします。そして、お茶を飲むとむせて咳が出ます。すると、なぜか、入れ歯を外す。しかも、下の歯の入れ歯だけを外します。外して、手に持ったまま咳をします。ダンディでハンサムな顔がとてもかわいらしいおじいちゃんになってしまいます。「可愛い!!」なんて言う余裕はなく不衛生ですからやめてください!と言ってもやめません。周りの利用者さんも顔を引きずりながら笑う・・。こんな状態が毎週続いたので、最後は経営判断です。人見さん、Sukkuを卒業しましょう!と宣言して卒業して頂きました。もちろん、そこで終わるのではなく、次に行くべき施設を相談・紹介して卒業してもらいました。
今でも、車の運転をしていると散歩をしている人見さんを見ます。その度に、入れ歯を外して咳をする人見さんの顔を思い出して少し苦い顔になる私でした。(おしまい)

次回は「85歳と鹿の知恵比べ」です。

ご予約ご質問