スツール

Sukkuのクスッと笑わせて

2020.10.25 更新

⑫「85歳と鹿の知恵比べ」

今年の冬は寒くなるかもしれないと思わせる10月後半。川瀬家は先日、六甲山登山に挑戦しました。1000メートル近い山への挑戦は初めてです。しかも、天気は雨。とても大変な登山でした。子供も一緒の登山は珍道中でしたので、次回のコラムで紹介したいと思います。

秋も深まり山々に自然の恵みが満ちている南丹市。今回は、その陰で山々から降りてくる鹿と日々格闘している杉村さん(仮名)を紹介したいと思います。
杉村さんは85歳の女性で小柄な方です。腰が曲がり杖で歩かれていますが、グランドゴルフや畑に日々取り組んでおられとても活動的なお年寄りです。そしてとても笑顔がチャーミングなおばあさんです。
そんな杉村さんは自宅の庭で畑に取り組んでおられます。夏の暑い日も冬の寒い日も毎日毎日畑に行かれてます。炎天下の中で体調不良になるまで畑をされていることもしばしば。特に夏野菜は一気に出来上がるので、取れるときも大量。Sukku利用者の方には畑をしている方も多いので、旬のお野菜をいろんな方が持ってきてくれます。
今年の夏の話しですが、いつものように杉村さんを迎えに行くと表情がすぐれません。青白い顔をしています。私が杉村さんに「なんか体調悪そうやね。」って聞くと、「調子が悪いんや。食欲ないし何食べても味がしないんや。」と返ってきました。これは夏バテだと思い、畑は早朝にして昼間はゆっくり休みや。と伝えました。
sukku利用中は色々な人と話しをされ、楽しそうに過ごされていました。
翌週迎えに行くとまた顔色がよくありません。本人も「調子が悪いのが続いている。」と。体重を測定すると2週間で2㎏痩せていました。けれども利用中は楽しそうにされて、運動もしっかりされています。
私を含めてスタッフが心配になり、改めて何かあったのかを問うと・・・
「畑に鹿が入ってきて茄子を全部食べられたんや。それが悔しくて悔しくて。柵も私が作ったのに!」と、鹿に対してそれはそれは怒っていました。
次の週に入っても体調は回復せず、体重は更に1㎏痩せました。あまりにも長引いているので主治医に相談され、胃カメラをすることになりました。
悪い予感がしました。食欲がなく、体重が減少して、味覚異常、そして、胃カメラ。
私と杉村さんの付き合いは長く、7・8年ほど。万が一悪い病気だとしたら年齢的にももう会えなくなるかも知れない・・・。
翌週迎えに行くと、白い顔で「胃に出血の痕があって貧血気味。鉄分の薬が増えた。」
更に私が、悪いものではないのか?と聞ききました。
「癌ではない。」その言葉で私もスタッフも安心しました。
なんで胃が出血するくらいになったんやろか?と聞くと理由は一つ。鹿。
畑を鹿に荒らされたこと。それによりやる気がなくなり毎日していた畑もしなくなってしまったのです。それがストレスの原因だったのです。
普段温厚でとても面白い杉村さんですが、この時期私たちが鹿の話しをすると、すぐに「鹿なんか死ねばいい。」を連発します。
最初に鹿に畑を荒らされた時から杉村さんなりに柵を修正して高くしたり、鹿が入る隙間を埋めたりしました。しかし、効き目は全然ありません。なぜか?
鹿は2mの高さまでだったら跳んでしまうのです。杉本さんは身長140センチです。
鹿が飛び越えれない高さの柵を作ることは不可能です。
そうこうしている間に毎週毎週鹿に畑を荒らされ、しっかり実のなっていた茄子も鹿に食べられてしまい茎だけになってしまいました。その茎も徐々に短くなり、もはや土から数センチ茎が出ているだけになっているのです。
茄子がなくなり、茎だけになり淋しくなった茄子と同調するように杉村さんの体調も悪くなり、体重も減り食欲もなくなったのです。
まさしく、鹿にやられてしまったのであります。
それから1か月ほどするとようやく体調が戻って来て顔色も良くなってきました。食欲も戻り、体重も戻ってきました。再度、病院で胃カメラを実施したところ胃は綺麗になり貧血もおさまりました。
急に体調が良くなったのはなぜだろう?
理由は簡単でした。
息子さんに鹿侵入防止ネットを作ってもらい、それから鹿が入って来なくなったからストレスがなくなり体調回復。今まで通り畑に取り組む日常が戻ったのです。
しかし、恐るべしは鹿です。夜に車を運転していると必ず鹿と遭遇します。
南丹市の綺麗な景色の陰には、鹿や猪、さらに猿まで民家に出没しています。
そして、野生動物の被害で杉村さんの様に心と体をを痛めている人が他にもたくさんいます。たかが畑、されど畑です。
年を重ねると、色々なものを失っていきます。体力や筋力だけでなく、友人や家族を失うこともあります。車の運転免許を返納することも失うことです。畑をしなくなることも失うことです。お年寄りが畑を失うことは自分の身体を失うことと同じなんです。
私たちが接しているお年寄りには、少しでも失うものが少なくなるようにしてあげたいですね。(おしまい)

次回は「下山のすすめ」です。

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