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Sukkuのクスッと笑わせて

2020.11.10 更新

⑬「下山のすすめ」

11月に入り南丹市の紅葉も一気に進んできました。
川瀬家は相変わらずの山三昧です。最近、京丹波町にある長老ヶ岳にトライしました。標高916メートルで京都府下で7番目の高さですが、登山道もしっかりと整備されとても登りやすい山でした。念のため熊除けのために鈴を持っていきました。ですが、我が家の登山には必要なかったようです。常に二人の子供が歌を歌ったり、疲れてくると喧嘩したり、何でもないところで「ヤッホー」と叫んだりで、いつも賑やかな登山になります。近々このコラムで、登山の珍道中を紹介できたらなと思います。

今回のコラムは下山のすすめです。
下山と言うと山をイメージされる方がほとんどだと思います。
今回の下山は人生の下山についてです。
これを教えてくれたのは春江さん(仮名)94歳女性です。
この方は以前のコラムで少し紹介しましたが、とても頭が良くて、自分の意見をしっかりと持っている方です。そして、とても読書好きです。
自宅では築200年の日本家屋の縁側で毎日本を読んでおられます。
築200年の日本家屋に94歳の女性が長年使った椅子に座り本を読んでいる姿。
その姿は長い時間そこで暮らし続けているから出る色のようなものがあります。その色は声をかけるとなくなってしまいそうで、その瞬間を一枚の写真としてアルバムに残しておきたくなります。実際、迎えに行ってもその姿を見ていたくて声をかけずに眺めていたことがあります。
春江さんの読書好きは小さいころからだそうですが、人生の節目節目でいろいろな本に助けてもらっていると言うのが口癖です。ご主人を早くして病気で亡くされて失意のどん底にいたときに助けてもらった時も本でした。その時の本は「聖書」です。聖書を最初から最後まで全部読破されたのです。そこにはとても素晴らしいことが書いてあり私の人生の軸になるものです。ときっぱりと話されます。
読む本は聖書だけではありません。樹木希林・五木寛之・阿川弘之ほかにも河合隼雄など多種多様。
私も河合隼雄が好きでよく読んでいますので、一度春江さんにお貸ししました。すると、4日で全て読破。それだけでも凄いのに、送迎中の車で最初から最後まである程度の話しを要約して私に教えてくれたのです。私は1か月かかって読んだけどそんなに上手にまとめて話すことは出来ません。
そして、最近よく話されるのが人生の下山についてです。
人生の下山とは、作家の五木寛之さんの著書である「下山の思想」からきています。
春江さん曰く、「人生上り調子の時は良い。本当に大変なのは人生の終わりが近づいてきているときをどう過ごすかが大事ですし、大変なんです。これは登山にも似ている。登山も登りが大変なように見えるけど、下山が大変なんです。事故も下山が多いでしょ!」
さすが春江さん。ご自身も登山が好きで色々な山を登られていました。伊吹山を下から最後に登頂したのは75才。山の怖さもよく知っている方ですので、言葉に深みもあります。

最近私がお貸しした本は、「DEATH」~死とは何か~ イエール大学教授の実際の講義を書籍にした本です。1年ほど前に店頭にすごく並んでいたので皆さん一度は目にしたことがあると思います。この本を渡した理由は人生の下山が大事と思っている春江さんは何を感じるだろうか?と知りたかったからです。そして、春江さんならこの内容の本を渡しても怒らないだろうと思ったからです。この本を読んだ春江さんの第一声は・・・
「私は今まで真剣に死を考えたこともなかった・・」
この94歳。人生の着地点はまだまだ先やなと思いました。

春江さんと話しをしていると節々で面白いことが出てきます。
春江さんは、去年の年末まで布団での生活でした。しかも、毎日布団の出し入れを自分でされていました。今年に入り立ち上がりや布団を毎日片づけることが大変になってきたので、家族や周りの支援者の勧めでベッドを導入することになりました。(本人は布団で90年以上寝起きしてきたので渋々でしたが)
ベッドを搬入して組み立てて、寝心地などを確認した春江さんの最初の言葉は、
「私はこのベッドで死ぬのか~。」
ベッドを搬入した時の感想は、起きやすくなったとか立ち上がりやすくなったという人がほとんどなんです。こんな言葉を発した方はいませんでしたのでその衝撃に思わず笑ってしまいました。
今年の秋には、夜中トイレにいくときに足下がふらついて危ないからなんとかならへんやろか?という相談がありました。私は、歩き初めが特に転倒の危険性があるので、平行棒を家に導入しようと伝えました。すると、春江さんは「私はシンプルが好きです。部屋にあまり物は置きたくありません。」と拒否されました。しかし、私もここで引き下がるわけにはいきません。半ば強制的に平行棒を導入して、置き場所を本人・家族と相談して決めました。そして、実際に平行棒を使ってトイレまで行ってもらうと、春江さんが一言「これは便利でええわ~。トイレまで楽に行ける。」私はヨシッ!と思いました。
しかし、春江さんのすごい所はそれからです。次の利用時に平行棒どうでした?って聞くと、「あれは良いですわ~。100回歩く練習しました。昨日は少ししんどかったから96回しかできませんでしたけど。」
春江さんの人生の下山はまだまだ続きそうです。最後までゆっくりとお付き合いしますね。
(おしまい)

次回「ひ孫やと思てます」です

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