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デコさんからの便り

2020.07.10 更新

『なぜこんなに生きにくいのか』 南直哉 新潮文庫

日曜午後のご機嫌なラジオ番組、「ラジオ・シャングリラ」。そこでかかる音楽は、一曲一曲でもとても素敵なのに、パーソナリティの立川さんと森永さんの巧みな語りにはさまれると、ピンク・フロイドも、ジョン・レノンも、コルトレーンも松任谷由美も、相互に絶妙な関連性が生まれて、とんでもなく心地よい、しあわせな時間になるのです。

 コロナ以前の日常を取り戻すにはほど遠く、新たな日常にもなじめないこの頃…ラジオを聴きながら、まったく別ジャンルの本を思い出しました。

 今わたしたちはコロナの時代にあって、これまでのことは一体なんだったのか、自然と人間との関係は? 人類の発展とは? これからどう生きるべきなのかと、思いを巡らせています。
 人間はこれまで、自由奔放に進歩をめざしてきました。その結果、触れることのなかった自然の奥深くにまで手を伸ばし、未知のウイルスがこちら側に入ってきた、そういう説が現在よく語られています。では、自由とはいったいなんなのか? これほどの自由を手に入れながら、人間はどうしていつまでたっても苦しむのか?

 そこでわたしは、恐山の禅僧、南直哉(みなみ じきさい)さんに相談するような気分で、 この本を開きました。

 南さんは、自由…それは自分にブレーキをかけられる状態である、と語ります。ブレーキをかけずに、どこまでも好き放題にやることは、ただ欲望にすぎない、と。
 また、人はただひとりでは意義はない、とも言い切ります。この世に生まれてしまった、そのこと自体に本来意味はなく、だれもがただ、最後のその日まで生ききってゆくだけだと。

 そこに生きる意味を生じさせるためには、人と人がお互いの関係をたいせつに育て上げ、「関係性」という価値をみずから創造していかなければならないのです。つまり、人と人とのつながりや関係性を、こわれものを扱うようにたいせつに育てていくことで、生きていく意味は生まれるのです。

 そのたいせつな関係性は、「敬意」をもって育てるべきだと、さらに南さんは重ねます。敬意とは、つまり想像力です。お互いを思いやり、お互いのわからなさを認め合い、わからないけれどもわかろうとすることで、互いを尊重しあう関係。そのことが、この人生の生きにくさを、すこしでも小さくしていく。

 この本では、社会、死と宗教、人生の意味、家族などさまざまなアプローチから、人生をいかに生きるかが語られています。やさしい語り口なので気軽に読んでみてください。

写真・文/ 中務秀子

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