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デコさんからの便り

2020.08.25 更新

 先日このコラムを書こうとしていたその日に、愛猫ももの具合が悪くなりました。ももは17歳。秋には18歳の、人間なら85歳くらいのおばあちゃん猫です。でも童顔で、いつも獣医さんの先生に、ももちゃん若いなあ、きれいやなあ、と言ってもらっています。そのももが朝から吐き続け、あっという間に脱水に。あわてて病院に連れていくと、そのまま入院になりました。

 子どもの頃からずっと動物と暮らしてきたわたしですが、ももは特別な存在です。40代初めに早すぎる更年期障害になり、もうしんどくてしんどくて……。気づかってくれた友人が、自分が飼おうとしていた耳と鼻がピンクの小さな猫を、譲ってくれたのでした。それからわたしは、泊まりがけの旅にも行かないくらい、ももといっしょに暮らしてきました。
 気位が高く、ほかの人には懐かない猫ですが、若い頃は、庭ですずめをねらっていて草の中でぐっすり眠ってしまったり、先住猫のみーちゃんがすりよってくると、うるちゃい! とけとばしちゃうようなお茶目なところがありました。数年前にみーちゃんが亡くなると、急にさみしがり屋の甘えん坊になり、年をとったこの頃は、さらに赤ちゃんがえりをして、もう、べたべた。
 そのももが入院。わたしはすっかり意気消沈しました。猫は気配の動物です。いないとその猫の形の空間がすっぽり抜け落ちてしまったようなさみしさがあるのです。そのとき手に取ったのがこの絵本です。

『このあとどうしちゃおう』
 ヨシタケシンスケ ブロンズ新社

「こないだ おじいちゃんが しんじゃった」と、絵本ははじまります。おじいちゃんの部屋を掃除していた「ぼく」は、1冊のノートをみつけます。「このあとどうしちゃおう」と書かれたそのノートには、おじいちゃんが自分が死んだあと、どうなりたいか、どうしてほしいかが書いてありました。

 おじいちゃんの「このあとの予定」は、まず死んだら「ゆうれいセンター」に行って、透明になってしばらくこの世の様子を見ます。気がすんだら天国へ。天国には、思い出話をなんでも面白がって聴いてくれる神さまや、空の飛び方を教えてくれる楽しい神さまが待っています。そしてそこには、先に亡くなったおばあちゃんがいて、とにかくおさしみがおいしくて、あちこちにおふとんと温泉があるのです。
 天国のおじいちゃんは、いろんな方法でこの世のみんなを見守ります。月になって。通りすがりの赤ちゃんになって。膝にできたかさぶたになって。また、死んだら、滑り台型とか、記念写真が撮れる型とか、いろんな形のお墓をつくってほしいし、記念品もつくってほしいなあ、とおじいちゃんは考えます。たとえばおじいちゃんTシャツとかおじいちゃん映画とか、おじいちゃんランドとか!

 おじいちゃんのノートをみていたら、「ぼく」はワクワクしてきて、天国へ行くのが楽しみになってきました。でも、とぼくは気がつきます。もしかしたらおじいちゃんは、さみしかったのかな、死ぬのがこわかったのかな、と。でもやっぱりおじいちゃん楽しそう……。どっちなんだろう? この先は絵本を読んでみてください。わたしは、もものしばしの不在のさみしさから救われました。はやく元気になって帰ってこないかなあ、もも。

写真・文/ 中務秀子

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