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デコさんからの便り

2020.10.25 更新

 このコラムの過去数回を読み返してみたら、なんとずっと病気の話題…。ほんと、やれやれ、です。子どものころから体が弱かったわたし。しょっちゅう何かの感染症にかかります。前回のお休みは、まさかの帯状疱疹の再発でした。

 そんなわたしにとって、気持ちを晴らすことはとてもたいせつ。それは読書や映画だったり、写真や編み物や庭仕事だったり。猫を愛することはもちろん、そして何よりも、気の合った友だちと話すことは、とても気持ちが安まるものです。

 ある本に、「依存の分散」という考え方が紹介されていました。熊谷晋一郎さんという、しょうがいをお持ちの小児科医の方が書かれた本です。熊谷さんは、体が硬直して思うように動かせないという状態でいらっしゃるのですが、ずっとお母さんにお世話をしてもらってきました。が、学生時代に一人暮らしをはじめ、「自立とはいったいなんだろう?」と考えはじめます。

 もし熊谷さんがずっと自宅に住んでいたら、お母さんが老齢になったり病気になったらどうなるのでしょう? たちまち全てが止まってしまうでしょう。
 そこで熊谷さんは、もっと多くの人に頼って、この人が無理でもあの人がいる、という風にしなければ生きていけないと気づきます。そうして、ひとりひとりへの依存が薄まれば、「自立」ということになるのでは? と考えました。

 実はわたしたちも、そうなのです。食べ物も、着るものも、仕事も楽しみも、なにもかも、実はだれかに関わっており、世話になっています。つまり依存先がたくさんあって、一見依存に見えないくらい薄まって、あたかも自分ひとりでやっているように見える。それが「依存の分散」です。だれにも、何にも頼らないのが自立ではない。数多くのだれかに、あるいは何かに頼って、そうして頼りあっている状態こそが、ほんとうの自立ではないか。

 前書きがとても長くなりました。そんなことをつらつらと考えていたとき、この本に出会いました。今回は漫画。1巻と2巻が出ています。

『ベルリンうわの空』
『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』
  香山哲 イーストプレス

 主人公の若者、哲は、ドイツのベルリンに旅行でやってきて、この街が気に入り、そのまま住みついて5年になります。哲がまわりの、ちょっと変わった人々とかかわっていく日々を描いた面白い漫画です。

 まず絵柄がとてもユニーク。ひとの顔が、犬や花やロボットや、その他のよくわからないものになっていて、一見すごくシュールなのです。が、そこがなんとも可愛らしい。ベルリンの街には移民が多く、いろんな人がいる、ということをその絵は表しているのでしょう。

 いろんな人がごちゃまぜに、ゆずりあったり助けあったりして暮らしていて、なんかいい。食べ物を分けあったり、いらないものをゆずりあったりすることが、街中になんでもなく、あたり前にあるのです。
 日本だと、清潔なの? とか、まずそういうことを気にして、お金を介するやりとり以外はあまり信用されないのですが、それだって、昭和のはじめごろまで残っていた、味噌やしょうゆの貸し借りがあった頃には、ふつうのことでした。でも今やそんなつきあいはほぼありません。昔に戻れ、というのではありません。もっと今にあった方法があるのでは? と言いたいのです。

 この漫画のベルリンでは、その方法が実践されています。街角に、だれがもっていってもいい「あげますボックス」があったり、みんなで使える公共の場があちこちにあったり。ゆずりあいの気持ちが自然にやりとりできる場が、街中にあふれているのです。

 依存の分散、ということを考えながら読んでいると、街にも人のあいだにも、そいういうことがふつうにあるといいなあ、と思えました。どうぞ読んでみてください。

写真・文/ 中務秀子

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