スツール

デコさんからの便り

2020.12.10 更新

 もう12月もなかば。多くの人が、この1年は時間感覚がおかしかった、知らない間に年末を迎えてしまって……と口にしているようですね。わたしもそんなひとりです。
 かつて経験したことのない、つらく不自由な日々のなかにも、楽しみと親切をみつけてゆきたい。そう思ったわたしが、あらたに出会いなおしたものは、編み物でした。

 小学生の頃、おばあちゃんに教えてもらった編み物。中学高校とずっと好きだったのに、受験で最初の中断。その後、家庭をもって復活したものの、わが家にいたのはふたりの息子でした。手編みのセーターよりジャージが好きな彼らに着てもらえなくて、じょじょにわたしの編み物への興味は薄れ、その後長いこと遠ざかっていました。

 それが去年、20数年ぶりに、孫の1年生コブタ(3きょうだいのいちばん上なのです 笑)がいきなり、毛糸編み教えて! と言い出しました。さあて、どうするんだっけ……とおもむろに、指で編む簡単なものから思い出しながら、いっしょにやってみました。すると! なんとも楽しいんです!
 それからは、帽子、かばん、お人形、ベスト、アームウォーマーと、どんどん編んで、こまかな技術も思い出していきました。手が覚えていたんですね。

 おかげで、感染予防でうちにひきこもりがちなり日々も、楽しくすごせました。なにより、つくったものをよろこんでくれる人がいる! それが励みでした。

 きょうご紹介する本も、そんな、ものつくることのよろこびと、わかちあうしあわせを描いた絵本です。

『アンナの赤いオーバー』
 ハリエット・ジィーフェルト文 アニタ・ローベル絵 松川真弓訳

『おばあさんとあひるたち』
 ホープ・ニューウェル作 奥山玲子画 光吉夏弥訳

 アンナは戦争が終わったころに、おかあさんとふたりきりで暮らしていました。お父さんやほかの家族は、戦争で亡くなったのでしょうか? 何も説明はありませんが、ボロボロに壊れた家や、ありものでなんとかしているようなその貧しい暮らしぶりから、おそらくそうなのでしょう。そんな生活のなかでも、アンナはすくすく育ちます。冬になって、いつも着ていたアンナの青いオーバーは、すり切れて、すっかり小さくなってしまいました。

 そこでおかあさんは、うちに残されていたおじいさんの金時計をもって、農場へ出かけます。羊を飼っているお百姓さんに、羊毛と金時計を交換してもらうために。お百姓さんは、春になって羊の毛を刈るまで待っておくれ、と言います。アンナとおかあさんは、気長に待つことにしました。

 お百姓さんに羊毛をわけてもらうと、今度は、糸紡ぎのおばあさんのところに行って、毛糸にしてもらうように頼みます。お礼はきれいなランプです。おばあさんは、わたしはゆっくり紡ぐので、気長に待っていてね、と言いました。

 それから、つぎつぎと、でも時間はたっぷりかけて、毛糸を赤く染め、機屋さんに布を織ってもらい、仕立て家さんにすてきな赤いオーバーに縫ってもらいました。もちろんそれぞれに、うちにあったお礼の品物をすすんで差し出しました。

 そうこうするうちに1年がたち、その年のクリスマスがやってきました。アンナとおかあさんは、去年より、もっているものは少なくなったけれど、赤いオーバーと、もっともっと豊かなものを手にしていたのです。
 いつものように、ラストは読んでのお楽しみ。どうぞ読んでみてくださいね。

 あ、それと、せっかくなので、クリスマス向きのおまけの1冊を。ホープ・ニューウェルの楽しいおはなしに、魔法使いサリーの原画監督などでも有名な、奥山玲子さんの絵本『おばあさんとあひるたち』も、同じようなテーマの、色鉛筆画の愛らしい絵本です。ぜひおすすめします!

写真・文/ 中務秀子

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