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デコさんからの便り

2021.03.25 更新

 前回のコラムで、「4月から、わたしにちょっとした変化があるのです」と書きましたが、わたしはいま、その変化の真っ最中にいます。2つの変化です。

 ひとつめは……19年間続けた、子ども造形教室を引退することです。
 そもそも26歳のときにはじめた、児童図書館での読書ボランティアからかぞえると、30数年間、子どもにかかわる仕事をしてきました。それを、この3月末に終えようとしています。

 わたしは若いころは、とくに幼い子が好きなわけではありませんでした。でも、子どもがお腹にいる頃から、なぜかわからないまま、とても惹かれるようになったのです。そして実際に自分の子どもを育ててみると、毎日が驚きと発見の連続。子どもってなんておもしろいの! と日々の忙しさの中でも、子育てを心から楽しんでいました。

 そのことと、小さい頃からずっと好きだった本が結びついて、たまたま近所にあった児童図書館で、読み聞かせやストーリーテリング、本棚整理などの仕事に出会いました。次第に仲間が増えてゆき、50名ほどのボランティアのチームをつくり、当時存続の危機に直面していた児童図書館を、みんなで支え合いました。その後、児童図書館が無事存続の運びとなったのを契機に、そうだ、自分たちでやろう! とチームのコアメンバーで立ち上げたのが、現在のコッコ・アトリエです。

 それからは週に一度、子どもたちに流行や常識にとらわれない経験をしてほしい、という思いでやってきました。ある時は、子どもたちの体より大きな壺をつくり、またある時は、裏山で採取した土でつくった土絵具で彩色した、巨大な仮面を作ったり。それらの活動は、チームのメンバーが力を合わせ、それぞれの得意なことを活かしたチームワークで実現したことばかりです。

 しかし……この1年余り、わたしには大きな変化がありました……体の変化です。しばらく立っていると股関節に強い痛みが走り、思うように活動できなくなったのです。そこでわたしは、そんな自分にもできることをやろうと、写真を撮ること、子どもたちや親御さんとの対話をていねいにすることに、それまで以上に専念しました。そんな中、竹内さんの写真のワークショップに参加できたことは、わたしにいろいろな気づきを与えてもらえました。

 多くの子どもの活動を支えるのは、大人の真意ある熱意です。大人も子どもも、自主的にやる!と感じる、純粋な欲望、と言えるかもしれません。それは片手間ではできず、優先順位を高くしていないとできないことです。が、体に痛みのあるわたしは、いろいろと支障を感じるようになっていきました。手を抜くのはいちばんいやでした。だから、わたしは引退を決めたのでした。

 引退の日、子どもたちからたくさんのお手紙をもらいました。そこには、話を聞いてくれてうれしかった、という言葉が並んでいました。そうなのです、わたしは子どもたちとの対話をとてもたいせつにしていました。対話をすることで、子どもたちの心が日々の制約やストレスから解放され、ものを作るという活動の自由さや楽しさに、きっと結びつくだろうと確信をもっていたのです。

 ただ耳を傾けること、評価をしないこと。ただ、わたしだったらこうするかな、というみじかい感想は伝えました。決してお説教や説得ではないように。そのことが子どもたちの心に届いていたのだなあ、とわかり、別れの悲しみは消え、わたしにはよろこびと満足しかありませんでした。

 ごめんなさい、本の紹介コラムなのでした。そんなことを考えていたここ数日、この本に出会いました。

『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』
 斎藤環 解説 水谷緑 まんが 医学書院

 オープンダイアローグは、精神医学の分野で、近年注目されている療法です。話を聴くことがメインで、それも医療者や患者の関係者がチームを組んで、患者の話を聴くのです。患者を変えようとはせず、本人が主体的に、自分の気持ちに気づくことをうながすような聴き方なのです。
 フィンランド発祥のこの療法は、まだ一般的とは言い難いのですが、著者の精神科医、斎藤環さんが書いておられるように、家族や友人など、ふつうの人間関係にもおおいに応用できる方法です。他に先行のすぐれた書物もありますが、今回まんがというわかりやすい形になって、より広く扉が開いたように思います。どうぞ手に取ってみてください。

 あ! もうひとつの変化を書き忘れていました。
 アトリエ引退の日、夕方遅くに4番目の孫が生まれました! いままで「3びきのコブタ」と呼んでいたのですが、さあこれからはどうしましょう。ナルニアきょうだい、かな?

写真・文/ 中務秀子

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