『すいかの匂い』江國香織
「ビー玉よりおはじきの方が好きだった。おなじようにガラスでできていても、ビー玉は持ち重りがするし、ぶつけたときに、ばちんと無遠慮な音がする。おはじきの方がずっとひそやかで心愉しい」ー「海辺の町」
「線路ぞいの耳鼻咽喉科のわきにおしろい花のしげみがあって、私はそこを通るたびに、花を一つとることにしていた。べつにおしろい花が好きだったわけではなく、ただそういう習慣になっていたのだ」ー「焼却炉」
新幹線に乗ると、おはじきをすると、すいかを食べると、思い出す。けして素晴らしいものではないのに、忘れられない、あの夏のことをー。
11人の少女たちの、ひと夏のできごと。
今回の『すいかの匂い』は、江國香織さんの短編集です!
この本の魅力は、初めに引用したような、独特の視点から物事を見つめた文体です。なにかが好きだった、嫌いだったとただ書くのではなく、どこがどう、と具体的に描写するのですが、そのときに挙げられるものが独自の比喩や視点なので、なんとなく心に残るのです。必ずしも後味が良いとは言えない物語が多いですが、読むとどことなく爽やかな感じもする不思議な短編集です。
年度が終わって始まる今、手に取ってみてはいかがですか?
