スツール

ターバン女のひとりごと

2022.09.15 更新

『メキシコのファミリア④』

メキシコからの御一行は、仏像を一体一体食い入るように眺め、大変興味を持ち始めていた。

ここでこんなに時間を費やしていたら、メインイベントの大仏へはいつ辿り着けるのか・・

という薄っすらとした焦りを胸に見守っていたら、ナッシュのママが一体の仏像の前で立ち止まっていた。

その目は感慨深い。

恐る恐る近づくと、わたしの気配に気づいたママは真剣な表情でこう言うのだ。

「・・わかった気がする。この仏像の右手から大地のエナジーを吸い、左手からエナジーを出しているのね」

その仏像にはそういった説明など一切ないのだが、ママが言うと、本当にそんな気がしてくる。

もうママがシャーマンにしか見えない。

物質的なものの背後にある見えないものを感じ取っているのだ。

ママはいつも言葉数は少なく、佇まいが静かな人で、それでいて朗らかな微笑を浮かべている。

わたしが中学生の時に出会った近所のイタコのおばはんより、遥かに霊的な能力を潜ませている人だ。

結局一時間以上はじっくりと仏像を観て回り、完全に「仏像もうお腹いっぱい」な状態から、メインの大仏を拝むことになった。

中華をたらふく食べた後に、焼肉を食べにいくような心持ちで、あの大仏を目の前にしても「大きいね」と力なく見上げるしかなかったのだが、ファミリア御一行はこれまた興味津々に観て回り、お守りなどのグッズにも心惹かれているようだった。

腹が減ったね、というところで近くにあった蕎麦屋に立ち寄る。

日本食が合わないのか、仏像を鑑賞しすぎた疲れなのか、恐ろしいくらいに静まり返って皆一同食べた記憶がある。

帰りの車内では、もちろんナッシュ先生によるスペイン語講座が始まるのだが、行きで教わったスペイン語の数の数え方をすでに忘れていたので、また頭を抱えることになったのは言うまでもない。

奈良から京都へ戻り、彼らが行きたがっていた店へ寄ることになった。

寺町にある一保堂という日本茶の専門店である。

ナッシュが無類の抹茶好きで、ぜひ抹茶を買っていきたいという。

ぞろぞろと店内に入り、多数ある種類に迷い始める。一同がスペイン語で会話していると、中にいた外国人店員のひとりがスペイン語で話しかけてきたのである。

聞くと彼はアルゼンチン人であるという。同じ南米出身ということで一気に和やいだ。

抹茶を探しているということで、彼は「今から点てましょうか」と、まさかのデモンストレーションを目の前で見せてくれたのだ。

アルゼンチン人がお茶を点て、メキシコ人がお点前を受け、それを日本人が見守るという、不思議な光景が繰り広げられた。

もうここが一体どこだか、わからない・・

ナッシュが抹茶を購入してる横で、ママが売り場の茶筅をしげしげと見つめていた。その目は真剣である。メキシコに持ち帰り、お茶を点てるママの絵が簡単に浮かぶ。

仏像といい、お茶といい、どこまでも和の文化を愛するファミリアである。

次の日、家族を大切にする彼ららしい場所へ案内することになった。

(つづく)

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