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Sukkuのクスッと笑わせて

2020.05.25 更新

②そうか。あれは中村さんの遺言だったのか・・・。

前回紹介した中村さん(仮名)は、施設を開設してすぐの利用者さんで、「俺はここの会員1号や!」が口癖でした。そんな中村さんですが、なかなかすごい人生を歩んでおられます。
80才を過ぎておられますが、学生時代は水泳でオリンピックを目指すほどのスポーツマンで、大学卒業後は大手の銀行に入社、結婚して子供も授かり、順風満帆の生活をされていました。時代は高度経済成長期に入り日本中が活力にみなぎっている時です。そこで中村さんは40手前にして脱サラをされました。脱サラして何をしたか?
広いフロアーにカラオケやダンスができて、2階にはVIPルームやサウナもある娯楽施設を祇園で出店したのです!時代を先取りした施設で、それはそれは流行ったそうです。お客さんは映画関係者(誰もが名前を知っている人!)も多く、ハリウッドスター(ア〇ン ドロン)と映っている写真もありました。中村さんもよく「あの時代は良かった~。」とか「あ~。あの女優は綺麗やった~」とニヤニヤして話していました。
中村さんは年齢以上の物忘れのある方ですので、その後どうやったのか?を聞いてもあまり憶えていません。けど、時々思い出したときに教えてもらえることがありました。どうも共同経営者に権利を騙されたらしく、自己破産して家族にも縁を切られたそうなんです。そのせいか、私たちの子供(当時二歳)が近寄ると、とても嬉しそうに子供をあやしてくださっていました。
そんな中村さんも持病の心臓の状態が徐々に悪化し、当施設をご利用されても運動はあまり出来ず寝ている時間が多くなり、しんどいためかスタッフに対して怒ることもあり、休む日も増えてきました。
ある日、中村さんを車に乗せて施設へ帰っている最中に「ええか。銀行員を利用しなあかん。銀行員は色々なお客を知っているから、いっぱい客を連れてきてくれるぞ」と目を開いて話してくれました。経営者として歩き始めたばかりの私は、ありがたい話を聞けたと思ってとても嬉しかったことをおぼえています。
そして、その言葉を最後に心臓の状態が悪化し、入院されそのまま帰ることなく天国へ旅立たれました。
お通夜には家族みんなで参加しましたが、孤独の身の方でしたので、寂しいお通夜でした。満面の笑みでハリウッドスターと写っている写真とその近くで眠っている中村さんは、人生の山も谷も見た人間らしい何とも言えない表情でした。
このコラムを書いていて中村さんのことを思い出すと、大変だったトイレ事件と誰もいないお通夜を思い出し、少し寂しい気持ちになります。そして、こんなことを伝えたいです。
天国にいる中村さん!「うちに来る銀行員は金を借りてくればっかり言うんやけど。借りたらアカンよね・・・」                                   (おしまい)

次回のコラムは、最近少しだけ光が見えてきたコロナについてです。
題は「コロナとトヨタと入れ歯」です。お楽しみに!

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