スツール

デコさんからの便り

2022.11.15 更新

 きのう久しぶりにたくさん雨が降って、今朝はひんやりと冷えこみました。紅葉や黄葉のうつくしい晩秋ですね。みなさんお元気にお過ごしでしょうか?

 流行り病も3年近く、対処の方法もまあまあ出揃って、この秋、人々は動き出しつつあるように感じます。わたし自身も少しずつ、外の世界に出ていくようになりました。
 ほどほどに人出のある場所での街歩き。そぞろに聞こえるいろいろな声に耳を傾けたり、流行の服装を眺めたり。そんなことにすら新鮮な喜びを感じています。

 とはいえ、この3年間での体力の衰えはちょっと気になっていて、なんとかしなければ、とも思っていました。そこでわたしは、なんと筋トレをはじめました! このわたしの生活に「筋トレ」なるワードが出現しようとは。本人すらドン引きです。

 高名な産婦人科医の高尾美穂先生が、更年期以降の運動のたいせつさを熱心に語っておられますが、その先生の本やYouTubeの動画を参考に、見よう見まねでやってみて、2か月。なんとなく体がしっかりしてきたのを実感しています。もともとひどい運動音痴のわたしのことですから、たいしたことはしていません。それでも、体を動かすって楽しい! と思えるのですから、これはすごいことが起こったようです。

 そんなこの頃、わたしはまたもや、どんぴしゃりの本に出会いました。

 『臆病者の自転車生活』
   安達茉理子 亜紀書房

 安達茉莉子さんは文筆家でエッセイストです。年齢ははっきりしませんが、たぶん30代後半?くらいのまだお若い方です。が、根っからの文系で、運動とは無縁の生活。そしてご本人いわく、体型もスポーツ体型ではいらっしゃらない。そんな安達さんが、ひょんなことから友人に電動自転車を借りて、忘れ物を取りにうちに戻らなければならなくなりました。その日から、安達さんは電動アシスト自転車にどはまりしてゆくのです。

「……だけど、本当に必要な人、必要なもの、出会うべき存在とは、こちらがたとえ背中を向けていたとしても、万難をすりぬけるようにして出会うことになっているのかもしれない。」

 と安達さんは自転車との出会いを描きます。そして、自分の足で漕いで、足らないことろは手伝ってくれる電動自転車に乗って、風を感じ、大好きな海までいってみるのです。ああ、行きたいところに自分で行けるってすてき。そのとき安達さんは、足元にある自分以外の動力の力を借りて、「自由意志を尊重されている」と感じます。

 遠くへ、もっと遠くへ、と、彼女は見たい風景を求めて走ります。でも……電動アシスト自転車には限界がありました。そう、充電で走れる距離には限界があるのです。
 そこで安達さんは、ロードバイクに希望を託しました。え! もうそこにいくの? と読んでいて驚きました。走る速度はめちゃくちゃ遅くて、ママチャリにもぬかされそうだ、と書いてあるのに? でも彼女の気持ちは前へ進みます。そういうときこそ、縁という不思議な力が働くのか、親しい友人からとてもいいロードバイクを安く譲ってもらえ、自転車仲間もできて、いろいろな力に助けられて、とうとうロードバイクで北海道へ遠乗りの旅へ! 

「できないと思っていたこと、コンプレックスーーそんな固く閉ざされていた地盤の底から、ムクムクと木が生えてくる。」

「変わりたいと思うようになった。だとしたら、変えていけばいいのだ。」

「私は別に速く走れなくていい。だけど、この先、どこに行っても、どこまで行っても、自転車を好きでいられたらいい。胸がドキドキしていることを大事に。無理せず、自分を乗り越えようなんてせず、だけどそうしたくなったら遠慮なく容赦なくーーこの相棒が与えてくれる旅を、共に走れる時間を、ただ味わって、楽しめたらいい。」

 不思議と読んでいてどんどん元気になっていく本です。安達さんの素直で正直な文章(それを文章にすることは、そんなに簡単じゃありません)を、どうぞみなさんも味わってみてください。おすすめします。

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