いずれ残暑は過ぎ去り清々しい秋はやってくる、と先月書きましたが、ようやくやってきましたね、秋が。みなさんお元気にお過ごしでしょうか。
さて今日は、珍しく前置きはなしにして、いきなり本の紹介と参ります。きょう紹介する絵本は、いずれわたしがこの世界から向こう側へ渡ったとき、わたしの本棚に見つけて読んでほしい、と思えるような作品でした。
『はなのちるちる』
鹿子裕文 作 森田るり 絵 京都市老人福祉施設協議会 刊
はなのさんは、おばあさん。ちるちるは、はなのさんの猫です。冒頭、ふたりは小高い丘の桜の木の下で、ベンチに腰掛けて、目の前に広がる街の絵を描いています。
「きょうというひを
だいじに おもうのは
としをとったから かしら?
どんなに たのしいじかんも
めが さめてしまえば きのうのこと
そこに ふたたびは もうなくて
あるのは ただ
きょうという いちにちだけ
どう? かんたんでしょ?
でも そんな かんたんなことが わかるのに
ずいぶん じかんが かかってしまった」
はなのさんは、絵を書きながら、過去の世界に遊びにゆきます。10歳の時間へ。20歳の時間へ。そこにはさまざまな思い出があふれています。いいこともあった、悪いことも。いじわるをされたことも、したことも。子どもも生まれた。仕事もした。一人暮らしにもなった、猫も飼った。楽しいことも、悲しかったことも、それらがやわらかくやさしい水彩画で描かれています。思い出しながら、はなのおばあさんは思うのです。
「わたしのじかんは あっというまだった
80さいになっても 90さいになっても
しわが たくさんになって
それでも やっぱり おもうこと
わたしはね
わたしのように いきたいの」
いつだったか、わたしが心底落ち込んだとき、竹内さんが「デコさん、これからがこれまでを決めるんです」と言ってくれたのを思い出します。そのとき、次男からはこんな言葉をもらいました。「これまでのことがあってこその、今なんだよ。だから大丈夫」と。
この絵本を読んで、あらためて、ふたりからもらったこのたいせつな言葉を思い出しました。そうなんですよね。あるのは、きょうという一日。その一日を、わたしは、わたしのように生きる。
前書きのかわりに書こうと思っていたことを、忘れてしまいました……。忘れるほどなんでもないことだったのでしょう。たぶんこのところ毎日のように庭を訪れるメジロの夫婦のことだったかしら……。
みなさんは今日の一日をどう生きていますか? わたしはこのコラムを書いて、写真を撮って、本を読んだり、編み物をしたり、ごはんをつくったりして過ごします。いつものように。
こんな日でも、ポジティブな気持ちもネガティブな気持ちも、どちらもあります。でもちょっとだけ、前を向く気分を強く、という意志をもって、ああ、きれいだな、と思える方へ向かっていきたいなあ、と思っています。
注:この絵本は一般の書店では取り扱いがありません。ご興味のある方は、京都市老人福祉施設協議会にお問合せください。