スツール

ターバン女のひとりごと

2021.06.10 更新

『わたしとターバン』

わたしが初めてターバンをつけたのは、2013年春だった。

それまでターバンに縁もゆかりもなく、アフリカの女性の民族衣装の一部であるという認識と、エスニック雑貨店の店員が巻いてるあれね、くらいしかなかった。

ただ、周囲でオシャレな女性はみなアレンジして個性的なターバンを巻いていた記憶がある。

昔の職場で海外のファッション雑誌から飛び出てきたような、洒落た仲間がいた。彼女はソフィア・ローレンのような顔つきで化粧も毎度ばっちりと決め、洋服はほとんどモノトーン。フランス映画や文学を愛する知的な女性で、なんでもないようなストールをぐるぐると頭に巻きつけ、ターバンにしていた。

イヤリングはアンティークの大ぶりのものをつけて、差し色の青がとても美しかった。

彼女を見る度に「ほう、、」とため息が漏れるのだが、丸顔の自分にはターバンは似合わないとずっと思っていたし、決してしようとも思わなかった。

月日が流れ、2012年に子供が生まれた。毎日のお世話と寝不足で、ふと鏡で自分の姿を見ると、髪の毛が落ち武者のようで、いかにも貧乏くさい。つぶらな瞳に映る母の姿が落ち武者だなんて、生まれてきたことを彼は一瞬でも後悔しそうだ。これはなんとかしたい。

あいにく毎日ヘアセットする器用さを持ち備えていないため、解決策はかなり絞られるが、急な来客で散らかった物を押入れの中に押し込んでおくが如く、髪の毛もその方式でいくことに決める。

「ターバンで全部隠しておいちゃいなよ」天の声がかすかに聞こえた気がした。もう丸顔だからターバンは似合わないなどと言ってる場合ではない。

しかし適当なものではなく、気に入ったものをつけたいと、ここに来て急なこだわりが姿を現し、ネットで「これ」と思うターバンを血眼で探す旅が始まったのである。

意外と付けたいターバンが見つからず難儀するも、ひとつ、グリーンとオレンジの編み込みのターバンが目に止まった。

「これや」また天の声が聞こえた気がした。

商品が到着すると、すぐに落ち武者スタイルを隠した。色も華やかで顔色まで明るく見える。これはいいと、毎日かぶり出す。

ターバンを装着するのが常になると、付けていない時が、やたらそわそわする。もう体の一部となってしまったのである。

それが2013年春だった。

以降ターバンを求めてネットを徘徊し、数々のターバンを手にし、お気に入りの物にいたっては、生地が伸びきるくらいヘビーリピートした。

街に出かけても、すぐに「ターバンの人」と顔を覚えられ、見知らぬ人にも声をかけられ、目立ちたくないのに目立ってしまうという現象も現れ始めた。

通りすがりのおばちゃんが、「あんた、それよう似合てるわあ!」とわざわざそれを言うだけのために追いかけてきてくれたり、電車で相席になったおばちゃんがしばらく凝視して「それ似合ってる!」と太鼓判を押してくれたり、エレベーターで一緒になったおばちゃんが「まあ、素敵やないの!で、あんたなに人や?」と聞いてきたり。

これだけ見知らぬ方々に(100%おあばちゃんだが)褒められると、ターバン冥利に尽きるし、血眼で探した甲斐があったというものだ。

だが、ターバンはお洒落のためでも目立ちたいから付けているのでもない。

ちょっぴり育児に疲れ、ヘアセットもできないズボラさが故の、落ち武者スタイルを隠すためだったのである。

文/ 岸岡洋子

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