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デコさんからの便り

2023.02.15 更新

 今日はバレンタインデー。あれ? もうそんな時期? 毎年1月2月はあっという間に日が過ぎてゆきますね。

 わたしにとってこの暮れから年明けは、家族のコロナ感染や、子猫2匹を迎えたことで、とても目まぐるしい日々でした。そして、子猫たちとの生活はほんとうに楽しい! 小さな生き物が日々巻き起こす騒動も愛らしい仕草も、何もかもが笑いを生み、命を見守ることのかけがえのなさを実感しています。

 そうしてようやくこの頃、去年のことを振り返り、これからのことをつらつらと考える余裕が生まれてきました。
 
 先日ラジオを聴いていて、「40代、50代くらいなら、まだ何かやりたいことがあるでしょう。でも60歳を超えたら、そういう気持ちも落ち着いてくるのでしょうね」と語られているのを耳にしました。わたしはどうなのだろう? と、そのとき思いました。

 どんな人でもそうだと思いますが、わたしにも、いろいろな年代でいろいろなことがありました。いいことも、わるいことも。ああ、あのとき、こうしていればどうなっていただろう、などと思い返すこともしばしばです。でもそれはもう取り返しがつきません。すんだことはすんだこと。それをわたしは後悔するでしょうか? いいえ。

 わたしはわたし。これまでのいいことも、わるいことも、全てがわたしをつくってきました。だからそれでいい。わたしはこれからのことを考えていこうと思います。
 だから、60歳過ぎた今もやりたいことがいっぱいなのです。
 
 去年わたしは、英国北部スコットランドの、小さな島の伝統工芸である「フェアアイル」という編み物の、ある認定試験に合格しました。フェアアイルは、複雑でうつくしい色彩の編み込み模様が特徴です。そして、北極海に面する島の漁師が来ても大丈夫なほど、丈夫で暖かい衣類です。わたしは若いころ、スコットランドにしばらく滞在していたことがあり、その風景は第二の故郷と思えるくらい大好きでした。とくに、はるか彼方に北極が臨める北の海の深い青。広く高く澄んだ青空。極寒の冬があるからこその爆発的にうつくしい短い夏の緑。澄みきった空気に育てられた色とりどりの花々や、うつくしい歌声の鳥たち。フェアアイルには、そういった島の風土が編み込まれています。

 先月ご紹介した三國真理子さんも、フェアアイルの作家です。わたしは、今からフェアアイル作家になろうという大きすぎる望みはもってはいません。が、いつかフェアアイルの作品で小さな作品展をしたい、と思っています。そしてその場を通じて、編み物がやさしい癒しの手仕事であることを、人々に知らせたい。
 
 すくなくとも、これから5年10年は修行でしょう。いったいわたしはいくつになるのかな? ほんとうに実現するかな? それはどうかわからないけれど、今この年齢で、目標をもって生き生きとご機嫌に過ごすことは、わたしにとって、とてもとてもたいせつなことだろう、とはっきりと感じています。

 昔ささやかな仕事で使っていた英語も、フェアアイルの原書を読むのに役立つでしょう。大好きな写真も、作品の記録や、もしかしたら作れるかもしれない作品集にも活用できるでしょう……。夢は広がります。実現できるかどうかはわからない。けれど、このわくわくしたスピリットをもつことは、きっとこれからのわたしを強く支えてくれると思います。

 なんだかここまでずっと、自分の思いばかりを綴ってしまいましたね。長々とごめんなさい。さて本の紹介です。今回は、内容のご紹介はありません。こんな本の楽しみ方もあるよ、ということを書こうと思います。

 編み物のような手仕事をしていると、同時に本を読むのは難しいです。それでもわたしは編みながら本を読みますが、ちょっとたいへん。目はふたつしかないのですから。でも耳はひまにしています。ということで、ありました、いいものが。朗読を聴くことです。Audibleという便利なものがあり、朗読の質がものすごくあがっていることに、最近気づきました。

 古い作品より、新しい作家のものがたくさんあります。わたしはずっと本を読んできましたので、多少は語彙がある方で、言葉を耳から入ってくる音で聞いても、ほぼすべてを書き言葉に変換でき、理解できます。だからとっても楽しめるのです!

 そのことに気づいて、たてつづけに、

宇佐美りん『推し、燃ゆ』
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
劉慈欣(りゅう じきん リウ・ツーシン)『三体』

の3冊を聴き編みしました。フェアアイルを編みながら聴いたのです。とくにあとの2冊は本にすれば500ページほどあり、朗読では17時間を超えます。でもとっても面白かった! 紙の本も準備してありますので、本でも読んでみるつもりです。

 新しいことにトライするってほんとうに楽しいです。みなさんもどうぞ気軽に試してみてくださいね。

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今月でいったんこのコラムを区切りにしたいと思います。ほぼ3年間連載してきました。ここからしばらくはインプットの時間を増やし、また再開できる日が来るまでお休みにしたいと考えています。突然でごめんなさい。

お手紙が来るのがちょっとあいてるなあ、という具合に考えてくださいね。そしてもしよろしければ、わたしにお手紙をくださるとたいへんうれしいです。

それでは。みなさんがお健やかに過ごされることをいつも願っています。

※ デコさんへのLETTER・LINE・MAILは、STU:Lに宛てて頂ければ必ずお伝えいたします。

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