『メキシコのファミリア⑥』
清水寺を後にした一行は、陶器店や土産物、食事処が並ぶ風情ある茶わん坂を下って行くことにした。
時計を見ると昼間近。そろそろ食事にしようと、一軒の定食屋に入る。
丼物が多く、各々好きな物を注文するのだが、奈良で立ち寄った蕎麦屋の如く、ファミリアたちはややテンション低めである。
日本食飽きたんかな?口に合わないのか?やっぱりスパイシーな辛めのものが良いのか?
首を傾げながら、静かに昼食は終わった。
店を出て、腹は満たされたが何かが足りない・・そんな一同の前に飛び込んできたのがソフトクリーム屋である。
せめて甘いものでもと思い、
「ねえねえ、ソフト食べる?」と、軽い調子で投げかけてみると、ファミリアたちは見る見るうちに顔がぱあっと明るくなり、「食べるー!」と本日一番のテンションになっていた。
オスカルもナッシュもママも、きらきらとした目で「抹茶!」「バニラ!」「チョコ!」と盛り上がりを見せた。
ソフトを各自受け取ると、皆笑顔で頬張っている。
あの定食屋のトーンは一体何だったのか。
というか、なんて正直な人たちなのだろう。
ソフトを食べながら、茶わん坂をゆったり下りる。
平和だ。
その後五条通りを散策中、陶器屋に興味を示したファミリアたち。
中に入ると、様々な陶器を物色し、これもあれもと購入し始め、あの墓参りの花屋と同様、店のおやじの電卓を叩く音が軽快に店内に響き渡る。
ナッシュはわたしに聞いてきた。
「どのお茶碗がいい?選んでほしい。あ、お箸も」
聞かれるままに選んでいると、
「これはあなた達がメキシコの我が家に来た時にいつでも出せるように、置いておくのよ」と笑顔のナッシュ。
なんと、我が家の分の食器をメキシコに持ち帰ってくれるのだ!
粋な計らいというか、あなた達も家族の一部と言われているようで、胸がじいんとする。
いつでも遊びに来て、ではなく、いつでも帰ってきて、と。
とても正直で、親しくなった友人達を家族同様に大切にする人たちなのだ。
陶器屋を出ると、「おおきにいーー!!」店主の軽快な挨拶が響き渡った。
(つづく)