スツール

デコさんからの便り

2022.01.15 更新

 あけましておめでとうございます。2022年がはじまって、初めてのスツールコラムです。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 年末年始、こごえるような寒さと、ぬけるような青空とが交互におとずれていましたが、ここ数日は晴れて寒さがゆるみ、光にもほんのすこし力がもどってきたように感じられますね。思わず庭に出てみると、低温のため澄みきった水底で、めだかたちがしずかに尾をひらめかせ、梅や沈丁花には蕾がつき、そこここになかよしのメジロのつがいが飛んできています。こうして、見えるところにも、地面の下のように見えないところにも、ちゃくちゃくと、春への仕度が進んでいるようです。

 そんな日々、わたしはせっせと手仕事にいそしんでいました。シンプルで暖かい毛糸の帽子をいくつも編んでは、(やさしいことに)ほしいと言ってくれた人たちに贈り物にしていました。赤ちゃんから大人まで、その人の好きな色は何色かな、ポンポンは似合うかな、などと想像しながら編む時間は、目の前にいないその人を思う静かな時間でした。そして手をとめたときは、やはり本を読みます。今日はこんな本をご紹介しましょう。

 『ゴールディーのお人形』
  M・B・ゴフスタイン作 末盛千枝子訳 現代企画室

 ゴールディーの仕事は、小さな木のお人形をつくることです。木のかたまりの中にうまっている人形の顔や体を彫り出し、森で拾った小枝で手と足を削り、絵の具で顔を描いて、服や靴下や靴を塗ってやります。そのすべてを、ゴールディーは心をこめてするのです。そしてとりわけ心をくだくのは、人形の表情でした。

「……きらきらした黒い瞳を描いてやり、最後にゴールディーは人形を片手にしっかりとにぎって、人形の顔に何回も何回も笑いかけます。それは、やさしくて、かわいらしい笑顔です。そして、その笑顔をうつすように、そっくりの顔を人形に描きます。」

 この笑顔のために、ゴールディーのお人形は、つくるそばから売れていきました。人形など買うつもりもなかったお客さんまで、こんなにかわいらしい笑顔のお人形を見てしまったら、胸がしめつけられるような思いがするのでした。

 ある日ゴールディーは、森をぬけて、街へ材料を買いに行きました。ミスター・ソロモンの店にも寄りました。ソロモンさんは、世界中の美しいものを仕入れて売っていて、ゴールディーのお人形も売ってくれていました。そこでゴールディーは、とても美しいものに出逢います。きれいな磁器でできた中国のランプでした。ゴールディーはこんなに繊細で美しいものを、これまで見たことがありませんでした。けれどそれは、とてもとても高い品物だったのです……。

 ゴールディーがほんとうに気に入っているとわかったソロモンさんは、値段をまけてくれて、その上ゴールディーがはらう前に先にランプをわけてくれました。ああ、ゴールディーはなんてうれしかったでしょう。
 けれども……小さな森と原っぱを抜けて、暗がりのなか家に帰る途中、ゴールディーの心はすっかり沈んでいました。どんなにきれいだったからといって、あんなに高価なものを買うなんて、ばかげたことだった。払い終わるまで長いあいだ、食うや食わずでいなければならないなんて……。

「ゴールディーは自分が、中身がなくて空っぽで、うつろな、つまらない人間のような気がしました。そして憂鬱な気持ちがひどくなって、気持ちは粉々になって、そのまま、ドアのそばに座りこんでしまいました。
 しばらくそこにいましたが、気がつくと、自分の声が『寂しいの』と言っているのが聞こえました。
「本当に寂しい、」彼女はそう言いました。
 それから疲れて泣きはじめ、そのままドアのそばで眠ってしまいました。」

 眠りこんだゴールディーは夢をみました。そこで出逢ったのは……ランプを作ったその人でした。それは、会ったこともない人のために心をこめてランプを作る、遠い国の人でした。どこかの誰かがきっと気に入ってくれると信じて、ひとりで一生懸命ランプを作ったのです。そう、ゴールディーとランプの人はずっと同じことをしてきた仲間だったのです。会ったこともない誰かをよろこばせようと、日々、つくる人。

 わたしたちも、みなそうではないですか? 毎日のごはんや、ほんのひと言かける言葉や、あれやこれや。あの人のために、よろこんでほしいと……。そしてそれは、いつか見知らぬひとをも慰めているかもしれません。心がぽっとあたたかくなる本です。どうぞ読んでみてください。

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