スツール

お客さんのコラム7/10版

2021.07.10 更新

産後、血眼でお気に入りのターバンを探し求めたあとは、文化的なものに枯渇していた。

以前一人暮らしをしていたアパートの周辺には、カフェ、喫茶店、ギャラリー、レコード屋、雑貨屋などが軒を連ね、時間が空くと友人の店などを尋ねたり、おいしい珈琲を飲みながら、いい音楽を聞き、お店の人と会話するというのが、日常のほっとする時間だった。

しかし引っ越してから周辺には田んぼと畑と山しかない。

ベビーカーを押しながら何度も空を仰ぎ、白目をむいた。

ああ、どうか、文化、文化を、、

そんなある日、義母から「ジャズ喫茶行ってきたで。革張りのソファでゆったりできてなあ、ええかんじやったわ」と情報を入手する。

ジャズ?喫茶店?革張りのソファー!

胸が高鳴る。

気づくと抱っこ紐でバスに飛び乗り、電車に乗り継いで、そのジャズ喫茶へ目掛けて鼻息荒く向かっていた。

最寄りの駅で下車したものの、店の方角がいまいちわからない。

少し歩き、魚屋のおやじに道を尋ねてみる。

おやじは絵に描いたように、額にねじり鉢巻をしていた。

「あの、◯◯っていうジャズ喫茶を探しているんですが、、」

「え?ジャズ喫茶?!方向はあっち側だよ。でもあんた、そんな赤ちゃん連れてジャズ喫茶行くのお?!」

おやじは眉を八の字にしている。

わたしは盤石たる想いで「はい」と首を縦に振ると、おやじの眉はやはり八の字のままだった。

おやじに礼をして、真っ直ぐにジャズ喫茶へ向かった。

薄暗い店内、ランチタイム後だったからか人はまばら、全席ゆったりとした革張りのソファー、そして流れるジャズ、、

胸の高鳴りを抑えながら、席に着く。

グレープフルーツジュースを頼み、広々としたソファーに息子をごろんと寝かせる。

息子は物珍しそうに手足をばたばたさせて、店内を見渡していた。

何も考えずに、店の空気感を感じ、ジュースを飲み干して、店を出る。

滞在時間30分ほどであったが、心はすっかり満たされていた。

しかし息子が歩きだすと、文化はあるけど騒々しい街中を次第に避けるようになっていった。

田んぼや、畑や山がある方が子供も大人ものびのび動けるからだ。

もう今は空を見上げても、白目はむかない。

絵・文/ 岸岡洋子

23期スツールフィルムカメラスクール(S.F.C.S)の生徒さん。5回の教室の間ずっと、ターバンを巻いてくる岸岡さんを見ていて、この人いかしてるなぁ。ハッハーン、きっとただ者ではないんだろう。アラブ方面のどこかで長ーく暮らしていて、きっと身についた風習なんだ、だからなんだ!と、身勝手に納得感を得ようと在り来たりな空想をしていたのをよく憶えている。


 梅雨も後半。先日はものすごい雨が降りましたね(被災地域のみなさん、お見舞い申し上げます)。わたしの住むあたりも夜通し警報が鳴り続け、近隣にも避難指示が出されました。翌日早く、朝の光がさしてくると、心の底からほっとしたものです。

 早速、家のまわりを見て回りました。あちこち泥はねはしていたものの、どこも無事。ところがふと見ると、水鉢のメダカたちの様子がすこし変なのです。体の色が赤っぽく変わっている? お腹の下にはなにやら黄色いかたまりが……。あ! 卵だ!
 コブタたち(…孫です 笑)のパパ(つまり息子です)がメダカにどはまりしていまして、4月に稚魚をくれたのですが、それが育ってもう親に! ええ~なんて早い!
 そこで、親メダカを網ですくって、お腹を指でさすって卵を取りわけました。卵は意外に固く、つまんだくらいではつぶれません。これを別の容器に入れて育てます。そうしないと、せまい水鉢のなかでは大きいメダカに食べられてしまうのです。卵は10日くらいで孵化するのですが、さてどうなるでしょう、生まれるかな? 楽しみ楽しみ、です。

 コロナ禍のあいだ、みんなほんとうに苦しい状況になりました。わたしにもつらいことはありました。でもそんな中、わたしにとってよかったのは、時間がたっぷりできたことです。もともと好きだった猫や読書や植物や写真にくわえ、編み物、野菜づくり、メダカ……。どれも決して大きなことではありません。けれど、小さなことの積み重ねで、日々よろこびをみつける時間を手に入れました。出かけられない、人に会えない不自由を、時間といううれしい自由に変えたのです。

 けれどもただひとつ、残念なことがあります。それは……大好きな映画館に行けないこと。もちろん、行こうと思えば行けるのです。が、体が丈夫でなく、去年5つも病気をしたわたしは、できればたくさん人が集まるところは行かない方がいい……。
 また、映画は家でも観られます。が、やはり映画館で観るのは格別なのです。それは、行き帰りをするということ。家を出て、映画館に着くまでのあいだの高揚感。暗い上映室に入って待つ時間。まっくらな中、どこか遠い別の世界にさらわれていくような、物語に浸り切る深い感覚。そして、観終わったあと、夢遊病者のようにふらふらと家路につく時間……。このような、行って帰る感覚は、ほとんど映画館でしか味わうことができません。

 ワクチンが打てたら行こう、と今は思っていますが、さいわいにも先日、その代わりになる、いやそれ以上に素晴らしいとも言える、すっかり別世界へ連れて行ってくれる本に出逢えました。

『中国・アメリカ 謎SF』
 柴田元幸・小島敬太編訳 白水社

 これは、過去にほぼ未紹介の作家たちのSF短編アンソロジー集です。アメリカの作品を柴田元幸さんが、中国の作品を小島敬太さんが訳しています。SFというと流行色、エンターテインメント色が強いものも数多く存在しているのですが、こちらはかなりレベルの高い文学作品たち。レベルが高いと言っても重厚というわけではなく、軽妙で面白く、でも深い。そういう作品を書く新しい世代のSF作家が、中国にもアメリカにも、今たくさん存在しているようです。

 世界中どこもそうですが、米中も、近年ますます政治的にも文化的にも環境的にも、非常に厳しい状況にあります。また、最先端と最下層が同居する、目も眩むような格差社会でもあります。だからこそそのことがかえって、不思議なおとぎ話のような優れた作品を生み出す原動力になっているのでしょう。人々は、夢と想像と謎で現実を解釈しようとしているのです。

 わたしがとくに面白く読んだ作品は、中国のものでは「マーおばさん」。とても奇想天外で、すこしでも紹介するとネタバレになってしまいそうなのですが、ビッグデータや最先端コンピュータの行き着く先……のようなお話で、いわばコンピュータに自我は生まれるか、という疑問を扱ったお話です。いやほんとに、こんな想像ができるとは! 謎に触れて、心地よい酔いさえ感じられました。
 アメリカの作品では、「曖昧機械」が素晴らしかった。こちらの方は、人間の自我の曖昧性を描いているのですが、どこまでが自分でどこからが自分でないのか、そういった古来からある感覚を、記憶の観点から描いています。しかしそこに最先端の機械が関わっているところが実に現代的で、かつその機械が異様に魅力的なのです。柴田元幸さんによる翻訳文がまた絶品で、わたしはなんども小さな声に出して、ひとり朗読を楽しみました。

 思えば、わたしが初めて触れた極小のメダカの卵にも、驚くほどの謎がつまっています。あの小さなつぶつぶに命がつまっているように、小さな物語にも深く広々とした命の謎に満ちた世界がつまっています。どうぞ読んでみてください。

写真・文/ 中務秀子

2018年・第27期のフィルムカメラ教室の生徒さんとして、お付き合いが始まりました。今もフィルムカメラを続けてらして、二眼レフカメラにも挑戦中。デコさんは本好き、映画好き、芸術好き、お話好き。いわば “ 忙しいひまじん ” です。とても自由で全然気取ってない表現に親近感を覚えさせてくれる先輩です。そして心友になりました。


『ののはな通信』 三浦しをん

横浜のミッション系女子校に通うののはな

ののは頭脳明晰で冷静な毒舌。

はなは外交官の娘で天真爛漫な少女。

とても馬が合い、親友となった二人だったが、そのうちののはある気持ちを抱く。

はなに対するその気持ちを、拒絶される覚悟で告白したのの。

密やかに育まれていったは、しかしある裏切りによって崩れはじめ…..。

ののとはなの、複雑で近く、遠い20年超を描いた物語です。

この本のなかみは、私にはまだわからず、けれど熱い気持ちがつまっています。

もしかしたら、私がこの気持ちを知るのは、まだまだ遠い将来かもしれないのです。

この本は表現も大人ですし、だれにでも読みやすい本ではないと思います。

しかし、多くの人に読んで欲しいです。

装丁も美しく、最近文庫化もしたので、ぜひ一読してみてください。

文・写真/ 木下琴子

2006年3月からのお付き合い。琴子ちゃんが生まれる前から撮影をさせて頂いてます。小学6年生になった今も記念日ごとには必ず、スタジオやお好きなロケ場所で撮影させて頂いてます。埼玉県からお越し下さいます。幼い頃から、本が好きと撮影のたびに僕に話してくれた琴子ちゃん。読みたい物語がまだまだ沢山あると思うと、これからが楽しみとも話してくれた。そんな琴子ちゃん目線の書評を毎月2回、依頼しています。


コラム「今年でホタルも見納めや~」

 私たちが引っ越しを終えて約2週間が過ぎました。新しい家の近くには生身天満宮という神社があります。この神社は菅原道真公が生きている間に祀ったと言われる、日本最古の天満宮です。私はこの神社を毎朝5時過ぎに参ります。歴史ある神社ですからとても神秘的で荘厳な雰囲気があります。皆さんも南丹市にお越しの際は生身天満宮をお参りください。

今回のコラムの登場人物 小山さん(仮名)女性です。
この方は91歳。難聴で膝と股関節が悪いですが、杖や押し車を使って毎日友人と散歩を楽しいでおられ、とても元気な方です。
特に髪型にはこだわりがあって、定期的に美容院へ出向きパーマをあてていてとてもお似合いです。例えるならサザエさんのような髪型で、91歳にはとても見えません。お化粧もされています。服装もなかなかオシャレで、夏場は半そでシャツの上に必ずベストか長袖の服を羽織ります。それも必ずシースルーです。他の利用者さんでも3名の女性がシャツの上に必ずシースルーの服を羽織ります。しかもこの3名、同じ地域の方なのです。でも利用日は別だから、打ち合わせしているはずはない・・なのに決まってシースルーです。3名にどこで買いましたか?と聞いても3名とも「大昔に買ったある物を着ているだけです・・。」ちなみに、他の地域の方が着てくることはありません。なぜかその地域の方だけです。そして、その3名は顔馴染みです。謎です。
そんな、小山さんの口癖は「年やしもうあきません。先は短い」です。この言葉を明るい雰囲気で話されます。その割にコロナワクチン接種は受付が始まった日に予約しています。早々に2回目の接種も終わりました。どちらも副反応はございません。
つい先月のこと。園部にはホタルがたくさん見れる秘密の場所があるのですが、小山さん、昨年も一昨年も見物に訪れていました。。そして、もちろん今年も見物に行かれました。
見物に行く前と行った後に必ず「これでホタルも見納めや~」と言います。その度に私は大声で「小山さん、毎年言うてるで~」って言い返し、皆大笑い。
実際小山さんのご利用が始まって3年が過ぎました。
本人は「弱っていく一方や。」って言われますが、毎日夕方に友人と歩いていますし、畑も精力的こなしていて、先週も夏野菜をいっぱい頂きました。何もなければあと何年も元気に過ごしているやろうなぁと思っています。

今回は利用者さんに教えて頂いた、園部のホタルにまつわるエトセトラを紹介します。
園部では昔から、ホタルは「25日でもう終わり。」という言い伝えがあるそうです。25日以降見るホタルは、死にホタルとか幽霊ホタルとか言うらしいです。
名前だけ聞くと何だか怖いですが、25日を過ぎるとホタルの点滅の回数が少なくなるらしいです。それを見たからと言って不幸な事が起ることはないらしいですが・・・。
皆さんも来年は6月中旬と後半のホタルの点滅の違いを感じてみてください。
(おしまい)
次回のコラムは、「母子ともに健康です」

写真・文/ 川瀬啓介・未央

Sukku 川瀬啓介 / 未央 (理学療法士・鍼灸師 / 鍼灸師)
〒622-0002 京都府南丹市園部町美園町4-16-38

TEL 0771-62-0005

2017年から京都の南丹市でリハビリを中心としたデイサービスをしています。利用者さんと過ごす時間は、笑い声と涙が入り混じる賑やかな毎日です。そんなささやかな日常、会話から気付かされること、そして個性派揃いのスタッフについて…色々な事を綴っています。

2011年11月からのお付き合い。楓くん・緑くんが生まれる前から撮影をさせて頂いていて、今も1年に1回は必ずスタジオ撮影にお越し下さいます。Sukkuというデイサービスの屋号は、佳代が名付けさせて頂きました。飾らない温かさ、自分の好きが明快で、歯切れがよい。けれど、流れる時間はゆっくり。そんなお二人の人柄が大好きで、バランスを崩した時には体を診てもらおうと決めているから安心です。笑いと涙のデイサービスの日々を毎月2回、綴ってもらってます。


30ページ

 キジバトは、街中でもふつうに見られる※留鳥です。

「デーデーポポー」とくり返して鳴きます。

よく地上を歩いて、地面をつつきながら種子などを食べます。

木の上で実を食べることもあります。

歩くときは、首をふって歩きます。

よく駅にいる灰色の「ドバト」とは違い、茶色っぽい方がキジバトです。

キジバトの名前の由来は、「キジ」(日本の国鳥)のメスのもように「キジバト」の背中のもようが似ていたことから由来したそうです。

おもしろいと思ったことは、キジバト(ハト)は水を吸い上げて飲むことができることです。

人間ではふつうのことですが、かたいくちばしのある鳥はくち(くちばし)をすぼめられません。

でもハトはストローのように吸いあげて飲むことができます。

ここでクイズです。

キジバトは以前何と呼ばれていたでしょう?

1. マチバト

2. コバト

3. ウミバト

4. ヤマバト

5. キジポッポ

正解は次の鳥図かんで発表します。

最後に前回のクイズの答えを発表します。

正解は

4. の1.6mでした。

※1年中同じ地域で見ることができる鳥

絵・文/ 中野響

お姉ちゃんとひーくんが生まれる前の、2005年10月から撮影をさせて頂いてます。今も2~3年に1回は必ず、スタジオや城陽のご自宅で撮ってます。小学6年生になったひーくんは、この前の撮影の時に鳥に魅せられていると話してくれた。それが小学生レベルの鳥好きの話ではなく、僕からすればもう学者レベル。しかも視点がユーモラスなのでこれはスゴイ!是非、図鑑を作ろうと盛り上がり、WEBという形で毎月2回、発表してもらっています。

ご予約ご質問