春の風のおじさん

やさしさって気づかいのできることなんだ。と、あるふとした事で改めて思った。
何となくやさしさには形があるように思う。
大きい小さいとか、深い浅いとか、長い短いとか。
でもそれはきっと受け手側の感じ方次第なんだろう。
こちら側がやさしさという行動を起こす前に、形にとらわれると結局何もできない。
こんなことをしても相手にとって有り難迷惑だの、なんだかんだ理由を付けて、
挙句には相手のせいにしたりしてやさしさのはずが、厳しい思いに変わったりして、そこにはもうさわやかさの欠片もない。
面と向かって何もできなくなった今の時代、少々お節介なくらいの方が失くしたものをまた、見つけられるのかも知れない。
あの円くやわらかで、でも冬の木のようにどこかピリッとした人情のある時代の瞬間を、また見つけられるかもしれない。
そんなことをガソリンスタンドの帰りすがら、ぼんやり空想してにんまりした。

灯油をタンクに入れ終わり、こぼした所を拭いていた時のこと。
後ろでおじさんが待っていたのが視界に入ったので、
「すみません、すぐにします。」と声を掛け、どんくさい自分とタンクをサッと慌てて拭き取っていると、おじさんが僕の目の前に何枚もぶら下っている袋を指差して、「その袋にタンクをいれればいい。」と清々しく教えてくれた。
大袋を手に取りタンクを入れようと手こずってると、透かさずおじさんが大袋の口を大きく開いてくれたのだ。
なんと気持ちの好いおじさんだ!
寒い冬に春の訪れを知らせる風のような人だった。
見れば普通のおじさんなんだけど、そこがまた好いのだ。
おじさんにとっては些細な出来事で小さなやさしさだったかもしれないけど、
僕にとっては胸に沁みる、大きくて深くてそしてずっと長く残るやさしさだった。

みんなのためとかじゃなく、目の前のその人が喜んでくれるようなやさしさを絶妙なタイミングで積み重ねて行こうと、強く思った。
もう春は近い。

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